第3次世界大戦はすでに始まったのか:中国とロシアが雪辱を果たすとき

ローマ教皇フランシスコは、「世界は現在、戦争状態にある。ウクライナ戦争前に『第3次世界大戦』について何度か話したが、ウクライナ戦争でそれが実際に勃発した」と述べた。

フランシスコ教皇は、自身の祖父がピアーヴェ川(イタリア北部を流れアドリア海に注ぐ河川)で第1次世界大戦を目撃したと語り、「1世紀に3度の世界大戦があり、すべての武器がその背後で取引されてきた」と語った。バチカン・ニュースは14日、フランシスコ教皇が5月19日に欧州のイエズス会系メディアでのインタビューで語った内容を報じた。

「コロナ禍や戦争は神からの刑罰ではない」と語るフランシスコ教皇(2022年5月18日、バチカンニュースから)

ウクライナで勃発した第3次世界大戦

フランシスコ教皇は会見で、ロシア正教会最高指導者モスクワ総主教キリル1世の「ウクライナ戦争は善と悪の形而上的な戦い」という説について、「戦争のルーツを深く検討することなく、善と悪の形而上学的な戦いという抽象的な世界に戦争の複雑性を矮小化することには同意できない。(ウクライナ戦争には)複雑に絡み合った要素を抱えたグローバルなものがある」と説明している。ちなみに、フランシスコ教皇は9月にカザフスタンでキリル1世と会談する計画があることを明らかにしている。

ロシアのプーチン大統領は2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させた。侵攻の目的はウクライナの非武装化、非ナチ化という。それに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「戦争はロシアとウクライナ2カ国間の戦いではない。ロシアと世界の民主主義国との間の戦争だ」と指摘、ウクライナ戦争が地域戦争ではなく、世界的な戦いであることを強調している。

明確な点は、ウクライナ戦争が100日間を超えた現在、戦争が世界の経済、エネルギー、食糧事情に大きな影響を与え、アフリカなど一部では食糧危機に直面する一方、欧州ではエネルギー価格、食糧価格の高騰を生み出している。すなわち、ゼレンスキー大統領が警告していたように、ウクライナ戦争はもはやローカルな戦争ではなく、世界的な影響を及ぼす大戦となってきている、ということだ。

WHOが新型コロナウイルスの発生源を報告

話をジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)に移す。WHOは9日、「中国武漢で発生した新型コロナウイルスの発生源問題で、武漢ウイルス研究所(WIV)からの流出説についてさらなる調査が必要だ」という内容の報告書を公表した。

同報告書はWHO諮問グループが作成したもので、「新型コロナウイルスの発生源を依然特定できないでいる。その主因は中国側が重要なデータを公表することを拒否しているからだ」と説明し、中国側に発生源調査の協力を求めている(「武漢ウイルス発生源解明は可能だ」2021年11月2日、「WHO調査団長エンバレク氏の証言」2021年8月22日参考)。

6月15日時点で世界で5億3663万人が感染し、約631万人が死亡した新型コロナウイルスの発生源について、動物界からウイルスの自然発生説と「武漢ウイルス研究所」流出説の2通りの説があるが、これまで決定的な結論は出ていない。

新型コロナウイルスは2019年秋ごろ、武漢から発生し、その2年後にはウイルス感染は全世界に広がり、パンデミック(世界的流行)となった。ワクチンが開発され、接種が進められているが、ウイルスにさまざまな変異株が生まれ、ウイルスを依然、根絶できない状況が続いている。

2019年秋ごろから、新型コロナウイルスが広がり、世界を席巻、2022年2月末からは、歴史的に“ブラッドランド”(流血地)と呼ばれるウクライナで戦争が勃発して、世界の食糧、エネルギーの危機を引き起こしている。

世界全土に大きな影響を与える出来事がほぼ同時期に発生しているわけだ。フランシスコ教皇はこの2つのグローバルな出来事から「ヨハネの黙示録」の世界を直感し、「第3次世界大戦が勃発した」と表現したのだろう。

国連の機能不全

世界を目下震撼させている2つの出来事は、新型コロナウイルスは中国で発生し、ウクライナ戦争はロシアが始めたものだ。共産党政権と強権政治の中国とロシアが第3次世界大戦を始めたといえるわけだ。ちなみに、両国は戦後から国連安保常任理事国の地位を有し、拒否権を駆使して世界の紛争解決をこれまで度々阻止してきた。その結果、国連は世界の紛争を解決し、平和を実現するという使命を果たすことができず、国連の機能はマヒしている。

第1次、第2次の世界大戦後、民主主義国と共産主義国間の冷戦時代が始まった。冷戦時代には、キューバ危機など第3次世界大戦が勃発する危険性はあったが、幸い、民主主義世界が共産主義世界に理念闘争で勝利することで軍事衝突を回避してきた。

その後、民主主義世界は指導力を失い、腐敗、堕落する一方、冷戦で敗北した共産主義世界の残滓が、「ドラゴンが再び頭を持ち上げてきた」(モスクワ生まれの映画監督、イリヤ・フルジャノフスキー氏)ように、雪辱を果たすために立ち上がってきた、といえるかもしれない。

写真はイメージ Bulgac/iStock(編集部)


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。