アメリカ利上げと景気後退の可能性:「消費は強い」は本当か?

注目されたアメリカFOMC(連邦公開市場委員会)は1994年以来の大幅な上昇となる75bpの利上げを発表しました。コロナによる行動制限からの解放感、物価上昇を受け、FOMCとしては3会合連続で合計の利上げ幅は1.50%となりました。

また、7月と9月の同会合でも引き続き継続した利上げを行うとみられており、FRBの最新の年末の見込みレートが3.4%なので今後あと1.75-2.00%の引き上げを残り4回の会合で見込むことになります。特にFRBは「対策遅れ」を指摘されることを懸念するとすれば7月、9月もアグレッシブな利上げがあり得るのかもしれません。

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さて、私はこの利上げについては利上げ姿勢を示し始めた頃から「ゆっくりした利上げに留めるべき」「今回の物価高を鎮静させるのに急速な利上げがその特効薬にならない」と意見してきました。

アメリカ人の懐はそれほど深いのか? 私にとってこれが最大の疑問です。ニュースのヘッドラインは「消費は強い」という言葉が並びます。様々な値上がりにも負けずリベンジ消費を行っているという訳です。しかし、統計ではそんな様相は見て取れないのです。

本日発表されたアメリカ小売売上高は5か月ぶりのマイナスとなり-0.3%となりました。1月のプラス2.7%から着実に階段を降りてくるようなデータの萎み方になっています。大型消費である自動車を除くデータでもプラス0.5%にとどまっておりますが、自動車販売が急速に落ち込んでいるのが見て取れます。

住宅着工件数の5月度の統計発表は明日なので何とも言えませんが、事前予想は前月比マイナスペースの継続になるとみられており、こちらも確実に下落トレンドが続いています。

私が見ているのはフロー収入とストック(資産)のバランスです。消費を先導するのはフロー収入の増減が大きく影響するのですが、物価がそれ以上に上がるとなれば同じだけの消費を続けるにはストックの取り崩し、ないし借り入れが必要ということになります。

以前もご紹介しましたが、アメリカの貯蓄率が異様に低迷してきています。4月のデータで4.4%しかありません。これは2008年以来の低水準です。アメリカの近年の歴史の中で貯蓄率がここまで下がったのはITバブル崩壊の時だけです。リーマンショックの時は貯蓄率は下がらなかったのです。

が、大変動が起きたのはコロナ期で政府のバラマキがあるごとに貯蓄率が垂直上昇し、30%を超えたこともありました。ところがその直後から見事に垂直落下しているデータを見る限り人々はそれらを1-3か月程度で使ってしまっていることが読み取れます。もはやあてもないのに今でも消費癖が抜けられない状態が続いているわけです。更に残念なことにこの貯蓄率はアメリカの金利政策とほとんど連動しないのです。

とすればマネタリズムの経済学で言う金融コントロールによる消費温度の調整機能は実はいうほどではないということになるのです。

では物価上昇は抑えられるのかであります。大所高所から見れば論評上においてグローバル経済が否定されつつある現在でも生産拠点の変更は一部を除き、特段かわりません。アメリカで生産を、という動きもトランプ政権時代からありますが、それはごく一部の高付加価値製品に限られます。

くれぐれも読み違えてはいけないのはアメリカ人は全員が金持ちではないのです。9割以上はごく普通の生活であり、家計は余剰(=貯蓄)を生まないバランス状態にあるのです。そしてそれらの家庭(Household)では物価高に対応して安いものに消費目線を変えるのです。

当然ながらそれらはアジアなどで生産されたモノが主体となり、物流の遅延とコスト増を支えます。FRBは金利をいくら上げようと消費者が100均で思いっきりショッピングすることを阻むことはできないのです。そしてそれらの価格も確実に上昇しているのですが、少額ゆえに気が付かないという迷路にあるのです。

今回の物価高はモノの価格と賃金と不動産の三つ巴の値上がりがキーだとみています。トリガーはモノの価格です。それには原油と物流の二つの要因を潰すことで解決できます。仕入れ値が下がればエンド価格の上昇バイアスは取れ、結果として賃金上昇圧力も低下します。

不動産は利上げにより不動産価値が適正レベルまで下がらないと投資リターンとの整合性が無くなります。単純にはキャップレートでみる利回り計算が市中の銀行預金利回りより上回るまで物件価格を理論的に下げる必要があります。

ここに気がつけば今、世界の中央銀行がやろうとしていることは片手落ちだということに気がつくと思うのです。アメリカの政策責任者は賢いのですから当然、この流れは分かっているはずです。

ただ、最近はアメリカのメディアの質もコメンテーターの質もひどく極端で読み手を惑わせることが増えたと思います。個性を出すのは構わないが、結局私は一次データを自分でみて読み取るしか先行きを占う方法がなくなってきたのもこれまた事実であります。

アメリカはかなり短視眼になっているのでそれに振り回されないことも重要だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月16日の記事より転載させていただきました。