財務省の行政事業レビュー公開プロセスに関して、「いつまで硬貨の発行を続けるのだろう」という記事を先日アップした。
「貨幣の製造に必要な経費」の「貨幣」とは「硬貨・コイン」のことである。公開プロセスの結論は「事業内容の一部改善」となった。老朽化した設備を更新しつつコスト削減に取り組むこと、キャッシュレス化など社会情勢による需要の変化を踏まえたうえで発行規模を決めることが指摘された。
ここまでが前の記事。僕も社会情勢によって今後需要は減少していくと主張したが、議論の中で財務省は災害対応で貨幣は必要と繰り返した。
災害とか停電が起きたときの非常時などには、引き続き現金というのは重要な決済手段となりますので、キャッシュレス化が進んだ中でもその重要性は変わらないと思います。
もっともらしいが本当だろうか。同様の指摘を読者からもいただいたので、少し説明を加えたい。
今はタンス預金があるから非常時に現金が使えるが、それがずっと続くわけではない。キャッシュレス生活を営んでいる人は、災害時に使う現金は手元にない。ATMが動かなければ現金は入手できない。
ところが、停電時にも動くキャッシュレスの仕組みは20年前に実用化されている。JR東日本のSuicaがそれだ。
路線バス料金をSuicaで「ピッ」とすると、残高はその場で減額される。しかし、使用記録がバスからJR東日本の「Suica台帳(中央サーバ)」に送られるのは、バスが車庫に戻った後だ。
ラッシュ時の大量の「ピッ」も、いちいちその場で中央サーバに送られているわけではない。「ピッ」データは駅で蓄積し、余裕があるときに中央サーバの情報を現行化する。こんな「自立分散高速処理技術」は、繰り返すが、20年前から利用されてきている。
災害時にも、店舗で「ピッ」データを蓄積できれば、Suicaで買い物ができる。バスの料金箱はバッテリー駆動だが、店舗のデータ蓄積器をバッテリーでバックアップすれば簡単には止まらない。
キャッシュレス技術はこの20年で大進歩している。非常時にも利用できるSuicaを越えるデジタル決済手段は開発可能である。
「和同開珎」以来、硬貨には1500年の歴史がある。硬貨を政府が発行する制度の「慣性」はとても大きい。硬貨の流通を維持するという目の前の課題に意識が傾くことを否定はできないが、それだけでは、長期的には無駄が起きる。硬貨発行をいつ終わりにするか、財務省は研究する必要がある。