医学教育に欠落しているコミュニケーション力を身に着ける仕組み

6月22日の夜、久しぶりに「NHKジャーナル」というラジオ番組に出演した(オンデマンド配信25分を過ぎたころから約9分間)。

今回のテーマは「AIホスピタル」だったが、約8分の時間枠で私がAIやデジタルを駆使して目指すものがどこまで伝わったのか、自信はない。これまではスタジオでの出演だったが、今回は自宅から電話で出演した。

前回まではNHKのスタジオで担当デスクの岩本裕さんの向かいに座って、岩本さんからのアドリブ質問を受けつつ、いろいろなことを解説していたが、今回はどこで合いの手が入るのかわからず、少し二人のやり取りがかぶってしまった。

特に相手にサインを送るわけではないのだが、スタジオにいると、何となく、アイコンタクトをしつつ、質問と回答のキャッチボールができていたが、電話だと表情を読み取ることができないため、間合いが難しかった。顔を見て話をすることが大切だと感じた。番組内でも言及したが、診察室で医師が患者さんの目を見て話をすることの重要性を再認識した。

最後の質問コーナーでは紹介されなかったが、「AIとロボット機能を持ったアンドロイドがいつになれば生まれるのか?」といった質問もあった。50-100年後には人間の機能を上回るアンドロイド型の医師ができるだろう。

人間の記憶容量には限界があるが、AIロボットは膨大な記憶容量を持つはずなので、科学的な側面では人間より優秀な診断・治療ができるはずだ。ただし、個々の患者さんの多様性・複雑性(たとえば、血管の微妙な位置など)を考えると、記憶だけでなく、瞬時の判断が求められるので、意外に難しいかもしれないと個人的には思っている。

また、番組でも述べたが、医学教育において不可欠のはずだが、今、欠落しているのは、思いやりのある人間力を身に着ける教育の仕組みだ。医学は科学ではあるが、医療には人間関係、患者・家族―医師・看護師間におけるさまざまなコミュニケーション(人と人とのふれあい)が重要である。知識のない医師は論外だが、知識があってもコミュニケーション力の欠如した、心のない医師は医療に携わる資格があるかどうか疑問だ。

Kayoko Hayashi/iStock

がん診療の場においても、機械的に発する何気ない医師の言葉に、心の傷ついた患者や家族はたくさんいる。標準療法を振りかざすだけで、心に寄り添わない医師が胸を張っているようでは、医療はよくならない。こんな一般のひとでもわかることを感じ取れない人が多い世の中を何とかしたいものだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年6月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。