「自分を元気づける一番良い方法は、誰か他の人を元気づけてあげることだ」
The best way to cheer yourself up is to try to cheer somebody else up.
“Der beste Weg, sich selbst eine Freude zu machen, ist: zu versuchen, einem andern eine Freude zu bereiten.”
マーク・トウェインの言葉の力
最近、感動した言葉は、と聞かれれば、米作家マーク・トウェイン(1835年~1910年)のこの言葉をすぐ思い出す。トウェインは生前、欧州を頻繁に旅行している。音楽の都ウィーンにもしばらく住んでいた。
トウェインは1897年9月、病弱なオリビア夫人と娘さんを連れ、ウィーンを初めて訪問している。夫人のためにイタリアの温かい地にも何度か旅している。夫人思いであり、子供を大切にする父親だった。そのような性格だったので、上記のような素晴らしい言葉が飛びだしたのだろう。ゆかりの場所は今でも訪問者が絶えない。
「トム・ソーヤーの冒険」や「ハックルベリー・フィンの冒険」の著者であり、ジャーナリストでもあったトウェインには多くの名言がある。たとえば、「死んだら葬式屋も悲しんでくれるぐらいに一生懸命生きよう」だ。心に響く言葉だ。
ただ、上記の言葉は落ち込んでいる時など励ましになる。自己憐憫ではなく、前に向かった建設的な内容が含まれているからだ。アルフレット・アドラー(1870年~1937年)の心理学に通じるものがあるかもしれない。
人を鼓舞し、勇気を与える言葉は素晴らしいが、相手の心を傷つける言葉は武器より恐ろしいものだ。叩かれた場合、しばらくすればその痛みは消えるが、言葉で傷つけられた場合、なかなか消えない。時に、生涯その言葉が付きまとう、といったケースもあるからだ。
新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章の最初の聖句はよく知られている。「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は初めに神と共にあった。すべてのものは、これによってできた」という聖句は、宇宙森羅万象は神の言葉から始まった、人間は神の言葉が実体として創造された存在、ということになる。神の似姿の最初の人間、アダムとエバが取り組んだ初めの仕事は名前をつけることだった。名前のない存在を愛することはできないからだ。
言葉の本来の力
「座右の銘」をもっている人が少なくない。苦しい時、試練の時、その言葉が自分を励まし、勇気と知恵を与えてくれたといった証をよく聞く。言葉は本来、それほどパワフルだ。
当方はジャーナリストとして無数の言葉、さまざまな情報の世界に生きているが、心から「その通りだ」と思うような言葉、表現に出会う機会はそう多くない。空虚な言葉といえば表現は悪いが、すぐに忘れてしまう言葉、風が吹けば飛んで行ってしまうような言葉の羅列に疲れを覚えることが多くなった。
そのような時、マーク・トウェインの上のような言葉に出会うと、感動を覚える。体験と知恵、そして観察に裏付けられた表現力のある文、言葉に出会うと、「そうだよね」と頷いてしまう。
ちなみに、アルベルト・アイシュタインは、「Die groste Macht hat das richtige Wort zur richtigen Zeit」(最大の力は正しい時の正しい言葉だ)」と述べている。
112年前に亡くなったマーク・トウェインが残した「言葉」が生き生きと蘇ってくる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。