前回はイギリスが、 不法入国しようとする外国人をルワンダの収容センターに送るという施策を紹介した。
イギリス政府は今年の4月にルワンダ政府と提携を結び、6月に30名余りの不法入国者の搬送を始めた。ところがこ最初の飛行機はキャンセルされてしまったのだ。
イギリス国内で不法入国者の人権を守るべきだという訴訟が起こされ、難民や移民問題専門の弁護士や団体が 反対を表明していた。
その後、欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)がイギリスの施策は「害を及ぼす」と介入したため、移送がキャンセルされたのである。
私が2021年12月に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない3 – 大変革期にやりたい放題の海外事情」という本にも書いたが、このような欧州人権裁判所の介入は、イギリスが長年EUとの関係で頭を悩ませてきたことの典型例の一つだ。
一国の政府、しかも特にEUを離脱した国の「内政問題」に対して、このように介入してくるEUをイギリスが毛嫌いしている理由がよくわかるだろう。
EUはこの件に限らずイギリスが人権問題を犯しているということで、難民問題だけではなく、イギリス国内で問題を起こしている政治的過激派や原理主義者の国外追放に対しても介入してくることがある。
またそれだけではなくイギリス国内の労使問題にも介入してくるのだ。
ところがイギリスの施策が全て人権侵害かというとそうでもなく、例えば労使問題に関しては、イギリスの国内法や労働慣行のほうが欧州大陸よりも遥かに市場経済を反映して「公平」だったりする。転職がしやすかったり、現場では性差別が遥かに少なく給料も高い。労働審判などの労働訴訟だって遥かにやりやすいのだ。
これは実際に働いてみるとよくわかるのだが、欧州大陸側、EU諸国は口では立派なことを言うのに実は仕事自体があまりなかったり、コネ偏重主義でイギリスよりもはるかに働きにくかったりする。
そして差別だってはるかに厳しいのだ。性差別だけではなく人種差別もきついし、欧州大陸はイギリスよりも階級差別、出身に対する縛りもきつい。これは実際に両方で働いたことがあると実によくわかる。日本人が知らない欧州の現実の一つだ。
欧州大陸はイギリスよりもはるかに無駄な規制も多い。起業家にとっても働く者にとってもあまり良い制度とは言えないものがたくさんある。現地で自営業や現地法人の運営をやると嫌というほどわかる。家の増築だって欧州大陸では大変だ。
だからEU諸国からイギリスに人がやたらと集まってくるのである。自由で働きやすく、もっと稼げ、外国人に開かれているからだ。
労使関係に限らずEUは、イギリスに対して思想論を押し出した文句を言いまくる。
これは難民問題に関しても全く同じなのである。
実はイギリスは難民をかなりの数受け入れている。申請プロセスも透明性が高い。弁護士へのアクセスも容易だ。審査が12ヶ月以上かかれば働くこともできる。政府のWebサイトも当然英語であるし、大変わかりやすく書かれている。銀行口座だってうんと開きやすいのである。これはドイツやフランスの非常に難解な書類やサイト、銀行のひどいサービスを比べるとよく分かる。
Let asylum seekers work in UK, migration advisers tell ministers
Committee also calls for care workers to be offered fast-track visas to tackle sector’s severe staff shortages
しかも実際に外国人がイギリスに住み始めるととにかく英語で様々な仕事や事務処理ができるし、 人々も非常にオープンなので外国人としてはとても住みやすいのだ。だからEU圏内に入国した不法入国者や難民はドーバー海峡を超えてイギリスを目指そうとするのだ。
閉鎖的で規制が厳しく、生活するのには地元の言葉がかなりできないと難しい他の欧州各国に比べると、イギリスは現実的な点では、はるかに人権に配慮していると言えるだろう。
口ではきれいなことを言っても実際は違うというEUの二枚舌をイギリスが嫌う理由がよく分かるだろう。
イギリスはそういった偽善を嫌ってEUを離脱したのである。