私はこのところ、ある確信があります。それは日本が外交的にキーになれる立場にある、ということです。消去法的帰着のみではなく、西側諸国や東南アジア諸国にとって岸田首相が良い意味でも悪い意味でも与しやすい相手なのだとみています。
秋の中間選挙でバイデン大統領はレームダック化する予想となっています。しかし、まだ確定的でもないと思っています。それは共和党もそこまで勢力が強い気がしないし、妊娠中絶権の判断を最高裁が覆したことで別の切り口で二分化してしまうからです。
世論が割れるのは民主主義の国ではほぼ同じ兆候ですが、共和党も一枚岩とは言い切れず、アメリカの民意の行方は更に混とんとするとみています。これは国民一人ひとりの芽ばえであり、マイノリティの声がSNSに乗って強く支持され、そのような声に反対のボイスを出しにくい社会が生まれていることもあるかもしれません。
今や、LGBTQについて「反対!」と声を上げれば相当のバッシングを食らうでしょう。「SDGsは無意味、温暖化問題はもっと違うところに理由がある」と声を上げれば「ではお主の考えを述べよ」と言われ、それで世論の賛同を得るのは厳しいところです。
これらは企業がコーポレートガバナンスやコンプライアンスを声高に主張し、社会と企業の共生という発想が広まったことも影響しています。「何か良いこと」をするのに人々が価値観を見出しているともいえます。皆さんが「カラダにいいこと何かしている?」というのも本質的には同じです。
その一方で「世の中の主流のボイス」によって民主的決定を強要されていると感じている人、今の状況を我慢している人は相当いると思っており、今の民主主義が必ずしももろ手を挙げられるものでもないと考えています。が、今の社会において全ての人を100%満たすことは不可能なわけで少なくとも「選択肢の自由」は現時点でこれに勝るものはないのでしょう。
つまり民主主義社会において世の流れにNOと言いにくい社会が出来てきた、そして選択の自由が狭められたというのが私が強く感じるところです。そしてこの世の中の流れの中で日本の世論と岸田首相のパーソナリティの組み合わせが見事にマッチしているのです。
岸田首相の支持率が想定以上に高いのは一旦自己主張をしても民意のリアクションに注意深く耳を傾け、微調整をすることでウィンウィンの結果を作り出しているからです。
私が就任前から「岸田さんは長くなる」と申し上げたのは今の日本の社会の声をうまく反映することができる最適任者であるからです。岸田首相はそんな国内からの支持だけではなく、海外の指導者からも一定の評価が生まれつつあるように見えます。ただ、それは岸田首相の性格だけではないでしょう。地政学と政治力学がそうさせるのだとみています。
今回の欧州全体を巻き込んだロシア問題の最中、欧州が世界をリードできる状況にはありません。基本は欧州体制の守勢と内部強化です。EU離脱をした英国は独立独歩のスタンス、フランスのマクロン大統領は本来であれば欧州大陸のリーダーシップをとるべきですが、支持不支持が完全に分かれ、一枚岩になれません。ドイツのショルツ首相は対ウクライナ政策で当初躓き、その後もかじ取りが安定しているようには見えません。
アメリカはバイデン氏の低支持率もありますが、むしろBiden Administrationという政権幹部の評価が今一つなのだと思います。そして冒頭に述べたようにアメリカは今後、更に混とんとする可能性を秘めています。
オーストラリアでは労働党が政権を取ったため、中国への一定の宥和が起きる可能性は否定できません。インドは自国中心主義です。23日にBRICS会議でインド モティ首相がそこにいました。ついこの前にはクワッドで日本にいました。つまりインドを巡る綱引き合戦とも言えます。それに対してインドは気にも留めていません。「俺の国はどうも魅力があるようだ」ぐらいでしょう。
とすれば台湾と友好的な関係があり、韓国との雪解けの可能性が出てきた中で対中国、ロシアの橋頭保として日本は地政学的に支援されやすく、注目も浴びやすいはずです。
岸田氏は安倍元首相ほど力強いポリシーと色濃さはないけれど菅氏のような不器用な感じもありません。つまり諸外国首脳からすれば議論しやすい上にちょっとおだてれば岸田首相は踊るのです。海外では「検討します」ではなくすぐに「協力します」と判断が早く、約束しお金もバラまいてくれます。相手にとってこれほどイージーなディールもないのです。
私の見る岸田首相のスタイルは「いい顔外交」です。八方美人ではなく、仲良しクラブを作り、クラブメンバーとそうではないところで差をつけるタイプです。
岸田氏は外交においては水を得た魚のように今後、更に力をつけていくとみています。ただ、私が気になるのはその際に国民との距離感が出やしないか、という点です。首相は国民と共に踊るのが原則。ですが、岸田氏が調子づいて国民のことをほったらかしてしまっては岸田氏にとってせっかくのチャンスが水の泡となります。
外交で国民期待との温度差が大きかった好例が日露戦争講和条約の際の小村寿太郎主席全権でした。どうも岸田氏は外交になると急に走りやすくなる傾向が見受けられるのでここは「しっかり」と自身を抑えるべきは抑えてもらいたいものです。
国民意識は正直、コロナで2年以上内面的なことしか向いておらず、ウクライナでの戦争もここにきて報道こそすれど遠い国の出来事的な感じがしています。そもそも日本人は島国で外交には無頓着な気質がありました。そのなかで、コロナからの病み上がりの段階で国内経済の正常化路線を築き、国民が安心安全に暮らせる明白な方向性の提示をせずして外交や隣国問題にも取り組めば「あぶはち取らず」になりかねません。
故に岸田首相は選挙後に閣僚組織を再編成し、国内をきちんと取りまとめてもらう体制を強化しながら得意の外交で成果を上げる戦略にしないとこの温度差はどんどん広がりかねません。
諸外国に多額の援助などのコミットメントをしている中で国内からは「私たちも苦しい」「これだけ頑張っているのに」という声があることにもっと耳を傾けてほしいものです。もしも選挙に対して声が上がるとすれば「外交は選挙のポイントになりにくい」という批判でしょう。G7とNATOで岸田首相がセンターテーブルに上ることはないはずです。
内政と外交のバランス感覚をうまくコントロールしないと政権支持率は徐々に悪化しかねません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月27日の記事より転載させていただきました。