働き方は改善してきたが
国家公務員総合職の希望者が年々減っています。
10年前の2012年度には、24000人程いた申込者数ですが、2022年には15000人程度にまで減少しています。
また、10年未満での退職者数も増加傾向です。
2014年には66人だったものが、2019年には139人にまで増えました(その後わずかに改善)。
退職につながる要因の一つである深夜まで仕事が続く仕事環境や業務の非効率については、メディアでもかなり取り上げられたこともあり、改善の目が見えてきています。
内閣人事局が国家公務員約5万人を対象に行った2021年度のアンケートでは、働き方改革が進んだ実感がある公務員は増加傾向にあることが分かっています。
旧知の官僚からは、オンラインでの国会議員説明が増えて時間が短縮できた、テレワークがやりやすくなったという声も聞こえています。深夜残業の原因でもある国会の改革やマネジメント層の意識改革など、できることはたくさんあるのでしょうが、業務環境については少しずつ良い方向に進んでいるようです。
霞が関で得られるスキル、活かせるスキルが見えにくいという課題
官僚が退職を選ぶ理由として、長時間労働以外に挙げられるのが、成長実感が得られにくいことです。先ほどの内閣人事局の調査によると、30代以下で退職を考えている職員は、自己成長できる魅力的な仕事に就きたい、仕事を通じてスキルが磨かれている実感がないことを、退職したい理由として多く挙げていることが分かっています。
自分が成長しているという実感を、若手官僚ほど実感しにくい、という課題があるのです。
千正組の肌感覚でも、自分がどんなスキルを得られているのか、ということで悩んでいる官僚は多いと感じます。
ある若手官僚はこんな風に話していました。
「役所の仕事は面白いが、役所の仕事で身についた能力が民間でどう活かされるのかわからない。霞が関の中だけでしか活かされない特殊能力なのであれば、早めに転職して違うスキルセットを身に着けた方がよいのかもしれないと思うこともあります」
霞が関で得られるスキルが見えにくく成長の実感を得られにくいことは、現役の若手官僚が転職を考えることにもつながっていると感じます。
一方で、霞が関の仕事の内容も、外からは見えにくいというのもまた事実です。民間で培った能力が本当に役に立つのかわからないままでは、霞が関で働きたい外部人材が中途採用での入職をあきらめてしまうことにつながりかねません。
若手官僚が霞が関のナカの仕事の上で身につけた能力に自信を持ち、安心して働き続けられること。
外部人材が霞が関のソトの仕事で身に着けた能力が役所の中でも通用することを知り、安心して霞が関にとびこめること。
この二つは、霞が関が優秀な人材を引き留め、獲得する上で重要な要素となりそうです。
この「霞が関の中で得られる能力」と「霞が関で役に立つ民間で培われる能力」は、民間と役所の両方を俯瞰してみないと中々わからないように思います。そこで今回は、中途採用の官僚が主体となって立ち上げたソトナカプロジェクトのメンバーにこれらの能力についてお伺いしました。
ソトナカプロジェクトとは
ソトナカプロジェクト(以下「ソトナカ」)というプロジェクト名は、立ち上げメンバーの多くが霞が関の「ソト」である民間で社会人生活をスタートし、転職して霞が関の「ナカ」に来たことに由来します。
経済産業省、農林水産省、国土交通省、厚生労働省など多くの省庁関係者が参加し、多様な人材が霞が関の門をたたけるようにと精力的に活動しています。
最近では5月25日に人事院総裁に提言書を手交し、より良い人事制度構築のための提案をしたほか、中途採用人材と生え抜き人材が意見交換する場も企画しています。
今回取材にご協力いただいたのは吉井弘和さん、西川朋子さん、佐伯健太郎さんの3名。
経営コンサル、記者、ベンチャー企業など多様なバックグラウンドを持つ皆さんのお話から、中途人材が役所で活かせる能力や、生え抜き人材が気づいていない貴重な能力がみえてきました。
※取材にご協力いただいた方々
吉井 弘和さん 厚生労働省保険局保険課課長補佐。ソトナカプロジェクト発起人。大学卒業後、外資系経営コンサルティング会社で約9年間勤務。社会保険診療報酬支払基金の理事長特任補佐を経て現職。
西川 朋子さん 文部科学省官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」広報・マーケティングチームリーダー(所属は(独)日本学生支援機構)。ソトナカプロジェクトメンバー。大学卒業後、出版社、PR会社、ITベンチャー勤務、会社経営などを経て、2014年より現職。
佐伯 健太郎さん 農林水産省経営局協同組織課課長補佐。ソトナカプロジェクトメンバー。大学卒業後、共同通信社で約14年間、地方支局及び本社政治部の記者として勤務。2020年に入省し、約半年の係長職を経て現職。
(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。