G7エルマウサミット開幕
岸田総理がドイツ・エルマウで開催されるG7サミットに出発した。ウクライナ問題、エネルギー・食糧品価格高騰等が主要なアジェンダになる。エネルギー・温暖化問題については5月26〜27日のG7気候・エネルギー・環境大臣会合でとりまとめられた共同声明が合意のベースとなるだろう。
G7気候・エネルギー・環境大臣会合については、国内石炭火力を2030年(あるいは2030年代)にフェーズアウトするか否かをめぐって、これに反対する日本が孤立しているとの事前の新聞報道があり、筆者は本欄で「安易な石炭火力フェーズアウトは日本にとって有害である」との所見を述べたところである。
結果的にG7気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明では「2035年までに電力セクターの大宗を脱炭素化する目標へコミットし、2030年の温室効果ガス排出削減目標及びネット・ゼロのコミットと整合性をとりながら、国内の排出削減対策の講じられていない石炭火力発電を最終的にフェーズアウトさせるという目標に向けて具体的かつ適時の取組を重点的に実施する」とされた。
排出削減対策のとられていない石炭火力のフェーズアウトのタイミングは「最終的に」(eventually)とされ、特定の年限は設けられていない。「2035年までに電力セクターの太宗を脱炭素化する」とあるが、「大宗(predominantly)」の解釈は各国に委ねられている。
日本の第6次エネルギー基本計画では2030年時点の電源構成の59%を非化石電源(再エネ36-38%、原子力20-22%、水素・アンモニア1%)で賄うとされており、「大宋」を掲げる共同声明との不整合はない。事前に懸念されたように外圧で国内石炭火力のフェーズアウトを強いられることは回避できたと言える。
「自縄自縛」のG7諸国への違和感
もっともこの問題はこれで決着ではない。ウクライナ戦争によるエネルギー危機の最中にあっても欧州における環境原理主義は根強い。ケリー特使のような環境左派に牛耳られている米国も同様だ。エルマウのサミット会場では化石燃料フェーズアウトを求める市民団体が気勢をあげているという。大臣会合では緑の党出身のハベック経済・気候大臣が議長役としてとりまとめに専念したが、来年の広島サミットで議長国日本を責め立てる側に回る可能性は十分にある。
大臣会合では化石燃料プロジェクトへの公的融資について、「国家安全保障と地政学的利益の促進が極めて重要であることを認識した上で、各国が明確に規定する、地球温暖化に関する1.5℃目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策の講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了にコミットする」との文言が盛り込まれた。
昨年11月のCOP26において、「排出削減対策の講じられていない化石燃料部門への公的支援を、限定的で1.5℃目標と整合的と定義される状況を除き、2022年末までに終了させる」との共同声明を有志国21か国が発出した。日本、中国、インド。サウジ等はこれに参加しなかったが日本を除くG7諸国が名前を連ねている。
今回の合意内容はこれを踏襲するものであるが、「国家安全保障と地政学的利益の促進が重要であることを認識した上で」という枕詞が入り、1.5℃目標やパリ協定との整合性については「各国が明確に規定」とされ、COP26の共同声明に比してフレキシビリティが与えられている。
ウクライナ戦争という状況変化も幾分作用したのであろう。とはいえ、化石燃料セクターに対するG7諸国の公的融資に厳しい制約がかかることは変わらない。筆者はウクライナ戦争によって化石燃料の需給ひっ迫が顕在化しているにもかかわらず、G7諸国がこのような自縄自縛に陥っていることに強い違和感を感ずる。
エネルギー温暖化問題が加速させる世界の対立と分断
G7諸国が化石燃料セクターへの公的融資から撤退したとしても、新興国、途上国がそれに追随するとは考えられない。途上国のエネルギーインフラニーズが今後も拡大していく中で、G7諸国が「化石燃料セクターは支援しない」と言えば、中国が嬉々としてその穴を埋めることになるだろう。中国においては17のSDGの中で気候行動に対する優先順位は15番目でしかないのだ。
ウクライナ戦争によって中国、ロシア等の権威主義国家と西側民主主義国家の対立・分断が顕在化している。当然、それぞれが国際社会の中で味方を増やそうとするだろう。中国は「自らの価値観を途上国に押し付ける西側先進国と異なり、自分たちは途上国の立場に立って支援を行う」として自らの影響力を拡大しようとするだろう。これは地政学的にも決して望ましいことではない。
途上国の立場からすれば経済発展のために各種インフラの整備が喫緊の課題であるのに、化石燃料を湯水のように使って豊かになり、温暖化問題の原因を作った先進国が、上から目線で途上国の化石燃料利用に制約を加えるのはとんでもない偽善と映るだろう。
昨年のCOP26で「国内石炭火力のフェーズアウト」との原案に対し、インドが「我が国には貧しい人が数億人おり、国内に潤沢に存在する石炭資源をクリーンに使うことは受け入れるが、フェーズアウトは不可」として最後まで抵抗し、「フェーズダウン」に改めさせた。
アジアのG7メンバーとして日本に託されたもの
筆者は温暖化交渉において先進国との差別化を要求する途上国と戦ってきたが、最近は環境原理主義的な立場から化石燃料を否定する欧米諸国の方に疑問を感ずる。COP26における石炭フェーズアウト論争もインドの議論の方によほど説得力を感じた。
G7レベルで前のめりのメッセージを出したとしてもインドネシアが議長を務めるG20サミットでそれが受け入れられるとは考えられない。
新興国が参加するG20において温暖化やエネルギー転換に関するトーンがG7よりも低くなるのは昨年の英国主催のG7、イタリア主催のG20で実証済みだ。ましてウクライナ戦争の結果、エネルギー・食糧品価格は高騰し、世界経済がスタグフレーションに陥るリスクが顕在化している。
環境原理主義はウクライナ戦争が突き付けた現実の前に、政治的スローガンとしてはともかく、現実からますます遠ざかっているように思える。来年の広島サミットでの日本のかじ取りは厳しいものになりそうだ。
しかし日本はアジアのエネルギーの現実をG7諸国の中で最も知悉している。欧米の尻馬に乗るのではなく、アジア地域からのG7メンバーとして、アジア諸国を包摂しうるような合意を導いてほしい。