マイナンバーカードを健康保険証として使うと医療データ集計が容易になるというのは本当か?

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2023年4月からのオンライン資格確認の義務化が検討されています。マイナンバーカードを健康保険証として使うという話です。なお、この義務化は患者への義務化ではなく、医療機関への義務化です。

賛否両論ある話ですが、今回はこれを実施した場合に、 「医療データ集計が容易になるか?」に焦点を当てて考察してみます。医療データがマイナンバーと紐付けされますと、その集計が楽になるイメージがあります。ネットではそれを期待する声も聞かれます。本当にそうなのか一度検証してみることにしました。

1.死亡統計データの収集は容易になるか?

容易にはなりません。

何故ならば死亡統計データは、死亡診断書に基づいて作成されるからです。現在、死亡診断書は電子化されていません。死亡統計データの収集を容易にするには、オンライン資格確認の義務化ではなく、死亡診断書の電子化が必要なのです。

なお、死亡診断書電子化の実証事業は、現在実施されています。ただし、「事業期間: 2022年~終了予定なし」となっており、いつまでに電子化を実現するかという期限の設定はありません。なんとも暢気な話です。

2.ワクチン接種歴の確認は容易になるか?

将来、容易になる可能性はあります。ただし、現在は容易ではありません。

現在、マイナポータルで閲覧できるデータは、薬剤情報、特定健診等情報、医療費通知情報です。ワクチン接種歴は閲覧できません。

ワクチン接種歴はマイナンバーと紐付けされていますので、マイナンバー自体が分かれば、 マイナンバーカードがなくても確認は可能です。問題は、病院より問い合わせる仕組みが存在していないことなのです。

3.診療情報(病院・診療所)と薬剤情報(薬局)が紐付けされ、医療データ分析が容易となるか?

現在すでに紐付けされています。マイナンバーカードを健康保険証として使う必要はありません。

2013年の時点で、レセプトの電子化率は、病院・診療所で96.6%、調剤薬局で99.9%となっています。当然、病院・診療所のデータと調剤薬局のデータは紐付けされています。現在すでに、それらのデータを用いた分析が可能なわけです。実際にこれらのビッグデータを、医療費適正化計画のための調査とか感染症の実態調査とかに役立てようとする試みはあるようです。

結論

マイナンバーカードを健康保険証として使用することにより、医療データ集計が容易になることはない。

なお、厚労省と総務省のポスターには、次のことが明示されています。

  • マイナンバーカードの健康保険証利用には、ICチップの中の「電子証明書」を使うため、マイナンバー(12桁の数字)は使われません。
  • 医療機関や薬局の受付窓口でマイナンバーを取り扱うことはありませんし、ご自身の診療情報がマイナンバーと紐づけられることもありません。

「診療情報がマイナンバーと紐付けされることはない」と明示されています。これで知らないうちに、診療情報がマイナンバーと紐づけられていたりすれば、詐欺のような話です。私自身は紐付けには賛成です。ただし、紐付けしないと公表しておいて、裏でこっそり紐付けするのであれば、大反対です。

ついでなので、医療データ集計を容易にする方法についても考えてみます。重要なのは次の2つです。

  1. 死亡診断書の電子化
  2. 電子カルテの標準化

医療情報交換の次世代標準フレームワークとしてHL7 FHIRが開発されています。アメリカやイギリスでは、このフレームワークをベースに電子カルテが作られています。目指すべき目標がはっきりしているわけですから、日本でも電子カルテの標準化を一刻も早く実施してほしいものです。日本版VSDの実現のためには、電子カルテの標準化は必須なのです。レセプトデータの質は高いとは言えないので、精密な分析をする場合には電子カルテの情報が必要です。

医療統計データ集計の迅速化は喫緊の課題です。厚労省は最優先でこの課題に取り組んでほしいと、私は思います。