新型コロナワクチンを対象にした健康被害救済制度の活用:日本と韓国の比較から

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わが国における新型コロナワクチンの接種回数は、2022年の5月15日までに2億7,000万回を上回るが、同時に膨大な数の副反応も報告されている。

医療機関からの副反応疑い症例の報告件数は、5月15日までに、33,787件に達し、うち重篤例は7,287件、死亡例は1,725件である。

予防接種健康被害救済制度とは

わが国では、ワクチン接種後の健康被害を救済する目的で、健康被害救済制度が1976年に創設され、各種の予防接種後に発生した健康被害者の救済が図られてきた。実際、1977年以降の過去42年間に、総計3,419件が認定され、医療費・医療手当(2,741件)、障害年金(466件)、死亡一時金・遺族年金・葬祭費用(148件)が支払われている。

副反応疑い報告制度とは異なり、健康被害救済制度の認定に当たっては『厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする』という方針で審査が行われている。

新型コロナワクチン接種後の健康被害を訴える患者数の増加につれ、ワクチン接種後の健康被害制度への関心も高まってきてはいるものの、医療従事者、行政、一般国民にこの制度が周知されているとは言い難い。

海外における状況

表1には、海外における新型コロナワクチン接種後の健康被害に対する救済制度を示す。国によって、救済の対象となる健康被害が異なる。アナフィラキシーや心筋炎、血栓性血小板減少症のように新型コロナワクチンとの因果関係が確立している疾患のみを救済の対象としている国から、接種部位の痛みや筋肉痛のような非重篤副反応までを救済対象としている国まで各国の対応は様々である。今回、非重篤副反応までを救済対象としている韓国の現況を紹介し、日本との比較を試みた。

表1 補償・支援対象となるワクチン接種後の副反応

韓国における新型コロナワクチン接種の状況

韓国(人口、5,170万人)では、mRNAワクチンとしてのファイザー、モデルナ製剤、ウイルスベクターワクチンとしてのアストラゼネカ、ヤンセン製剤に加えて組み換えタンパクワクチンであるノババックス製剤が使用されている。

6月の時点での総接種回数は1億2,500万回に達し、2回目接種率は86.9%、3回目接種率は64.9%、4回目接種率は8.2%である。

副反応事例申告件数

副反応は、非重篤副反応と重篤副反応に区分されており、報告された副反応471,068件のうち、非重篤副反応は、452,530件(96.1%)、重篤副反応は18,538件(3.9%)報告されている。

非重篤副反応には、接種部位の発赤や疼痛、発熱、頭痛、悪寒などありふれた副反応を含む。重篤副反応は、死亡例、障害を残した症例や集中治療室への入院例などが含まれる。

新型コロナワクチンによる健康被害に対する補償

図1に韓国におけるコロナワクチンによる健康被害の補償手続きを示す。

図1  韓国におけるコロナワクチン健康被害の補償手続き

患者本人あるいは保護者が各自治体に補償の申請を行う。医療費における本人の負担金が30万ウオン(3万円)未満なら各自治体で被害補償の審議を行い、30万ウオン以上であれば専門委員会で審議する。

専門委員会は、臨床医、感染症・免疫学・微生物学専門家、法医学者、弁護士、市民団体が推薦した専門家など15人で構成されている。専門委員会で因果関係が認定されれば、死亡一時補償金として4.6億ウオンが補償される。

さらに、因果関係を認定するのに十分な証拠がなくても、重篤副反応やWHOが積極的にモニタリングを必要と認めたギランバレー症候群や横断性脊髄炎については以下の要件を満たした場合に支援事業として医療費や死亡見舞金が支払われる。

  1. ワクチン接種前に症状との関連を示唆する基礎疾患が見られないこと
  2. 当該症状がワクチン接種から合理的な時期に発症すること

などの要件を満たす必要がある。

死亡見舞金は5千万ウオン、医療費は3千万ウオンが限度である。

健康被害の補償あるいは支援対象となる疾患

韓国では、診断されればワクチン接種との因果関係ありと認定される疾患と、因果関係がある可能性はあるもののその根拠は未だ十分でない疾患のリストが提示され、それぞれ、補償や支援の対象となっている。認定の対象疾患であっても、他に原因がある場合や、時間関係が合理的でない場合などは補償の対象にはならない。

表2 ワクチン接種との因果関係が認定された疾患

韓国における健康被害補償の実績

韓国では毎月健康被害審査会が開催され、最近では1回に2,000から4,500件が審査されており、これまでの累積審査件数は40,973件である。13,748件に医療費が6件に死亡一時金が支払われた。

この他、本人負担が30万ウオン未満で専門委員会では審議されずに、各自治体で処理された案件が11,101件あるが、4,200件に診療費が払われた。医療費支援事業の対象は、107件で、死亡慰労金は4件に支払われた。

表3 韓国におけるコロナワクチン健康被害審査会開催状況と審査の結果

日本における新型コロナワクチン健康被害の認定状況

表4に示すように、わが国でもコロナワクチン健康被害審査部会が、今年の6月までに10回開催されているが、累積の審議件数は843件に過ぎない。棄却は6%ほどで、審議に回れば、ほとんどは認定されている。

表4 日本におけるコロナワクチン健康被害審査部会開催状況と審査の結果

棄却されたケースについては、棄却理由が付記されており、全てにおいて“疾病の程度は、通常、起こりうる副反応の範囲内である”と記載されているが、その意味するところは理解不能である。

健康被害審査部会で認定された疾病と症状

第5回までに認定されたのは、すべて、アナフィラキシーあるいは急性アレルギー反応であったが、6回目以降からその他の疾病や症状についても認定されている。アナフィラキシー・急性アレルギー反応以外で認定された疾病や症状を下記に示す。

【アナフィラキシー・急性アレルギー反応以外で認定された疾病、症状】

血圧上昇、血管迷走反射、過換気症候群、不随意運動、脱力発作、意識消失発作、全身けいれん、顔面ミオクローヌス、急性胃腸炎・低カリウム血症・手指の硬直、全身性紅斑・発熱・体動困難、急性腹症疑い、悪心・頭痛・腕のしびれ、蕁麻疹、頭痛・悪心、洞性頻脈・手の震え、下痢・嘔吐・頭痛・脱水、多形滲出性紅斑、めまい・嘔気・頭痛・握力低下、高血圧性緊急症、肩関節周囲炎、頸部リンパ節炎、顔面神経麻痺、末梢神経障害、発熱・肝機能異常、発熱・脱力・歩行困難

疾病名ではなく、血圧上昇、悪心、頭痛、腕のしびれといった非重篤副反応で見られる症状のみでも認定されており、認定のハードルは高くはないようだ。一方、6月現在で死亡一時金は178件申請されているが、審査会で審議の対象となったのは7件のみで、これまでのところ全例保留になっている。

海外とりわけ韓国と比較すると、わが国ではコロナワクチン接種後の健康被害に対する救済制度が活用されていないことは歴然としている。問題がどこにあるかを、明らかにすることが、本制度の活用を図るにあたっての第一歩と思われる。

なお、今回の論考では、大韓民国政策ブリーフィングで韓国疾病管理庁が2022年6月9日に配信した資料と厚生労働省ホームページ、疾病・障害認定審査会資料を参照資料とした。