病むアメリカ、バイデン氏の苦悩:極めて複雑になった社会構造の舵取りは困難

バイデン氏が24年大統領選の適格者か、と聞かれれば意見は相当割れるでしょう。バイデン氏の続投支持と考える人は優しい心の持ち主かもしれません。年齢を考えてみよ、と言われれば「まだ病気一つしないし、心配された失言も少ないではないか」というかもしれません。

バイデン大統領 同大統領Fbより cbies/iStock

が、既に79歳、次期大統領選で当選すれば82歳再選、86歳までやることになります。もちろん、マレーシアのようなケースもありますが、世界への影響力を考えれば知力、経験と共に体力や判断力のスピード、フットワークの軽さは大統領の持つべき必須の資質と条件だと考えています。

ただ、私はバイデン大統領が内政に苦しんでいるのは氏の年齢やStatesmanship(政治的手腕)というよりアメリカという国が民主主義のジレンマに落ち込んでいるように見えるのです。そして民主党の支持を受けるバイデン氏はその奥深い渦に巻き込まれ、脱出できない、そう見えるのです。

私はアメリカ型民主主義という表現を時々使います。最大の違いは議院内閣制ではなく、二大政党のどちらかが支持する大統領が議会とは比較的隔離された形で政権を執行するという特徴があります。大統領の権限は強く、また議院内閣制のような解散総選挙もありません。大統領が議会に出ることは年頭教書と予算教書演説ぐらいです。極論を言えば議員による民主制というより大統領による民主制でしょう。

アメリカ国民は政党選択に於いてAかBという二者択一を迫られます。悩まなくてもよいという単純性はありますが、二つのどちらかが全てを満足できるものでもありません。とすればこれは本当に民主的であるのか、第三極や第四極が政治の微妙なさじ加減に影響力を与える方がより国民にメリットある手法ではないか、という指摘は当然なされます。

アメリカは民主主義国家なのか、といえば純粋にはそうとは言い切れません。奴隷という歴史を持ち、「5分の3条項」という差別的選挙制度を採用した国です。ジェファーソンをはじめとする初期のアメリカ指導者は奴隷抱える人たちであり、その流れが大地主、「士業」などの知的職業従事者、それが近年では社会的成功者、富裕層といったグループと一般庶民、移民層という明白な差があぶりだされます。その上、LGBTQを含む弱者の声を拾い上げる運動が高まる一方で銃規制が本格的に進む様相はありません。

私はアメリカ民主主義は誇れるものではなく、一歩間違えば権威国家になりかねないリスクすら持ち合わせているとみています。より純粋な民主国家は日本やカナダ、英国のスタイルではないかと思います。ただ、民主国家になればモノを決めるプロセスが長く、議論が続き、素早い決定ができない弱点があります。アメリカが世界のトップとして君臨しているのは国民に選ばれた大統領が権力をもってその政治的手腕を思う存分発揮することにあり、議会がそれを実務的に調整、追随する展開力にあるとみています。

その点では権威主義の代表国家である中国もロシアも同様で国家元首がカリスマ的存在であればあるほどその決定に対する国家の動きは素早いものになります。一方でアメリカを含め、その判断は必ずしも国民全員を満足させるものではなく、また十分議論をなすチャンスもないというデメリットもあるのです。(もちろん、議院内閣制での決定が国民全員を満足させるわけではありませんが、緩和効果はあるとみています。)

この複雑怪奇になった社会構造を牛耳るのはたやすくないでしょう。日経によるとアメリカ人の現在の不満は雇用と株価を含む経済対策(20%)、物価対策(15%)、政治的分断への対処(11%)、銃規制(10%)、中絶問題(5%)となっており、ウクライナ問題に至ってはわずか2%でしかありません。つまり外交問題やロシア制裁問題、さらには中国の脅威といったことは政治の主題に上がってきていないのです。同じことは先の参議院選挙でもいえ、日本でもあれだけ話題になったウクライナ、台湾問題そして自民党が選挙戦で外交問題を第一義としたにもかかわらず国民の関心はそこにはありませんでした。

これは何を意味するのか、私は民主主義ではなく造語をさせて頂くと「Me-ish主義(=私的主義)」なのだろうとみています。結局、国民が置かれている立場はかつての資本家と労働者という単純明快な区別ではなく、二桁もあるであろう数多くの帰属の中でそれぞれの権利と地位改善や地位保全を求める自己利益保身型になっているとも言えます。

とりもなおさず、これがポピュリズム政治の原点であり、政治家は政治屋というビジネス稼業と化すわけです。

となれば今年の中間選挙、24年の大統領選共、数多い帰属集団のうち、どの声を拾い上げるか、最大公約数を求める新民主主義的戦略が選挙対策上は最も有利な展開となります。トランプ氏はキリスト教福音派や全米ライフル協会といったキーとなる帰属集団をうまく取り込み、当選したと理解しています。

これが正しい方向なのか、私には判断つきかねます。そもそも民主主義という言葉を我々はあまりにも不用意に使いすぎているとみています。多くの政治家が「民主主義の根幹を揺るがす…」という表現をしますが、それが常に正しい意味で使われているとは思えないのです。安倍氏が凶弾に倒れた際も多くの政治家がその言葉を発しましたが、あの事件と民主主義を結びつけるのは困難であります。

世界では権威主義の国が増えています。それは民主主義が壁にぶつかっているから、とも言えます。その最先端を行くのがアメリカであり、バイデン氏の苦悩とはそこにあるとみています。これはバイデン氏の手腕だけの問題ではなく、アメリカが建国以来持ち続けてきた伝統、歴史、文化そのものへの挑戦ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月13日の記事より転載させていただきました。