前の日曜日、大和西大寺駅に行ってきた。平城京跡を訪れたいと思っていたこともあるが、元総理が凶弾に倒れた場所で冥福をお祈りしたい気持ちがあり、行ってきた。
駅前の献花台に遺影が置かれており、献花をする人の長蛇の列が続いていた。平城京跡の方向に少なくとも五百メートルほどの列ができていた。
毀誉褒貶があった方だが、声をあげない多数の安倍支持者がいることを実感した。私にとっての安倍元総理は、失敗しても再び立ち上がることができる社会であることを示した存在である。私がシカゴに旅立ったころ、日本は私を大いに失望させた民主党政権下にあった。
自分の無力さを痛感して2012年3月29日に成田空港を後にした。当時の官房長官は、記者からの質問に「給料がいいからアメリカに行ったのでしょう」と言い放った。この自らを反省しない意識こそ、年末に無残に政権を失った要因なのだ。
もう、日本に戻るつもりはなく、シカゴのハイドパークのミシガン湖と科学博物館を眼下に眺めることのできる築50年のアパートの一室を買ったのは、2012年の秋だった。当時1ドル80円弱であり、東京よりもはるかに安かった。
その後、安倍自民党は、年末選挙に大勝利して政権に返り咲いた。これは日本にとっては幸いだったと思う。その後の安倍政権は多くの批判を浴びたが、日本の存在感を高めたことを忘れてはならない。
第1次安倍政権の失敗は、それ以外の人物であったら二度と立ち上がれないくらいのダメージだったはずだ。しかし、失敗すれば終わってしまう日本社会の常識を覆し、一度失敗しても、真面目に努力すれば、復活できることを示したことは意義深いと思う。
米国永住権を持っていたにもかかわらず、2017年ころから、「もう一度日本に戻って、自分も日の丸を世界に示したい」と考えるようになったのは安倍元総理の影響が大きかったと思う。
近畿大学の入学式で「大切なことは失敗から立ち直ること」というメッセージを残している。これこそ、今の若者たちに送る必要な言葉だ。失敗を忘れず、チャレンジし続けて、日本を変えて欲しいと願うばかりだ。
「七転び八起き」というが、日本では「一転び、それで終わり」が大半だ。失敗して立ち上がるには、普通に立ち上がるよりも辛い。それでも、立ち上がって前に向いて歩き続ける人を支援できる体制が必要だ。努力している人を見守り、支援できる社会にしたい。4月以降、しんどい思いをして、気持ちが折れかけているが、献花台の写真を見て頑張るしかないと思った。日本のために!
改めて、心より安倍元総理のご冥福をお祈りしたい。そして、一度だけであるが食事をご一緒させていただいたことのある元総理のご母堂、安倍洋子様の健康を願わずにはいられない。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。