人口減少も歓迎すべき変化
中国の経済社会問題で日本のメディアが大扱いしているのは、経済成長の失速と人口減少です。いままでのペースで中国が経済成長し、人口もどんど増えていったら日本はおろか世界の脅威であり続けます。
むしろ中国の経済低迷と人口減少は、日本や世界にとって歓迎すべきことです。ロシアのウクライナ侵略を傍観、黙認している中国を批判しながら、経済低迷、人口減の問題になると、日本のメディアはまるで中国政府の視点に立ったかのような捉え方をする。「ちょっと待てよ」です。
中国の4-6月期の実質経済成長率は0.4%に失速し、22年度の成功率目標の5.5%の達成は難しくなりました。共産党独裁政権の長期化を目指している習近平政権にとっては、重大事です。
それを日本のメディアはどうみているのか。日経新聞の社説は「中国は経済浮揚への政策の抜本的見直しを」(7月16日)という見出しです。日本のメディアがこんなことを言うのは、間違った方向に向いている。
社説は「目標の5.5%目標達成は難しい。抜本的な政策の修正が必要だ」「不動産不況に加え、IT企業や教育産業への締め付けなど、急進的な施策による政策不況の結果だ」「ゼロコロナ政策も各地の実情に合わせ、大胆に見直すべきだ」と続きます。
さらに「就職難は深刻だ。16-24歳の失業率は19.3%と歴史的な高水準に達した」「新たな懸念は、地域金融を担う複数の銀行で預金が引き出せなくなった問題だ」と、まるで人民日報なら書くかもしれない感じです。政権を批判できない人民日報はここまでは書けないかもしれません。
中国にとって、もう一つの重大事は人口減少です。国連推計によると、「世界人口は11月中旬に80億人を突破する。23年には、インドが中国を上回り、世界最多となる」との予想です。
日経は一面トップ記事で、同じ国連推計を使い、「世界人口増は1%割れ。戦後の成長の支えが転機」の見出しです。地球は80億人もの人口を支えきれないところまできています。これも大いに歓迎すべき変化です。
それが日経の記事では、「急速な少子高齢化で経済の好循環(人口増による経済成長)は幕を下ろそうとしている。その象徴が中国だ。14億人とい世界最大の市場はグローバル経済の需要を生み出してきた。今後、経済を押し上げる力は弱まる」と、将来を悲観しているのです。
読売新聞も「中国が人口減に危機感」(7月18日)の見出しで「中国の国力衰退に直結しかねない。生産は消費を支える若い世代が減れば、経済成長の鈍化は避けられない」と、日経と同じような感覚です。
「中国政府にとっては危機であっても、世界や日本にとっては歓迎すべき転換期である」と、書いてほしいのです。経済記事ではなく、政治経済学的な視点が必要です。
読売は社説「中国経済失速」で、「中国は『世界の工場』と呼ばれ、国際的なサプライチェーン(供給網)の中核として成長を遂げてきた。上海には部品産業が集積し、日本にとっても重要性が高い」と、懸念をあらわにしています。
中国が『世界の工場』になってしまったから、国際社会での振る舞いは横暴を極め、軍事力も強い経済があってこそでした。ロシアと違い、何かあっても経済制裁は困難という見方が多かった。中国が転換期を迎えることは、むしろ評価、歓迎すべきことなのです。
朝日新聞は、1面3段で「大幅な経済減速」、2面の「時時刻刻」で大扱いし、「ウクライナ危機に伴うインフレに苦しむ世界経済に追い打ちとなる」「中国の不可解なゼロコロナ戦略(都市封鎖)が世界貿易をマヒさせている」です。
コロナ感染拡大はグロバリゼーションの行き過ぎのリスクに警鐘を鳴らし、さらにロシアのウクライナ侵略に伴う経済制裁で世界市場が分断されました。ポスト・グローバリゼーションのあり方を考えるべきなのです。
中国嫌いの産経新聞なら、そのあたりを指摘するのかと思っていましたら、「経済失速」は2面の下段に目立たない扱いでした。
「中国依存からの脱却」「ポスト・グローバリゼーションからの転換」「世界人口80億人に悲鳴を上げる地球環境」を念頭に、持続可能な経済社会とは何かを考える。日本の経済記事には、こうした政治経済社会学的な視点が欠落しているように思います。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。