(モンテカルロシミュレーションで検証 連載52)
本連載で開発、検証してきました山火事理論は、その定式化、半値幅の普遍性等のこれまでの結果を論文にまとめ、リンク1、リンク2(こちらは同時翻訳で日本語にできます。式の記号は化けますが)、にアップしました。まだ査読前ですのでご留意ください。補足ファイルにモデルの詳細、式、日本を含む15カ国の結果と各波のR0等(日本場合年齢別のパラメータを含む)の全てのデータがあります。
第7波の急激な感染拡大の原因について専門家は、 (1) オミクロン変異株BA.5の感染力の増大、(2) ワクチン効果の減弱、(3) 人流の増加、等を指摘しています。本稿では、山火事理論を用いて(1)、(2)について解析します。(3)については定量的に評価するだけのデータがないので取扱いません。
結論は、BA.5の感染力は、それ以前のオミクロン株のR0の値で1.12倍、ワクチン効果の減弱によって、第7波の総感染者で48%増(215万人増)、死亡者総数で45%増(600人増)、ピークは7月29日で日毎陽性者12万人、このピーク値は、ワクチン効果の減弱で51%増(6.1万人増)という結果です。つまり、ワクチン効果の減弱がないとすると、第7波は、ほぼ半分になります。
1.ワクチン効果の減弱
令和3年11月25日の第60回アドバイザリーボードで、西浦先生がワクチン効果の減弱について報告しています。それを参考に、連載50で解析したブースター接種による感染抑制効果に時間経過による減弱を取り入れます。減弱効果は、接種からの時間経過とともに指数関数で現れるとし、半減期を150日と仮定しました。
図1の上部にワクチンによる感染抑制因子をプロットしています。減弱無(水色)が連載50で用いたもので、ブースター接種が、年齢平均で最大61%接種、2回接種から有効性30%増加を仮定し、即ち18.3%(=61%×30%)の抑制効果、感染抑制因子としては最大0.818(=1.0-0.183)です。これに半減期150日の減弱効果を加味したものが、黒線の抑制因子になります。8月末で0.9まで抑制効果が落ちます。
評価の方法は連載50と同じです。まず、減弱効果を入れたブースター接種の抑制因子(黒線)を入れて、データを再現するように各R0を決定し、自己無撞着な解を求めます。結果は図1の黒線です。次に同じ条件で、減弱効果のない抑制因子(水色)を用いて計算します。結果は水色線です。更に、ブースター接種が全くない場合を計算します。即ち抑制因子を1にします。結果は橙色です。
図2は対数表示で、陽性者の他に、60歳以上の陽性者、死亡者のデータとそれぞれの計算結果を示しています。
これらから結果をまとめると、BA.5の感染力は、計算で求められたR0の値で比較すると1.12倍、ワクチン効果の減弱によって、第7波の総感染者で48%増(215万人増)、死亡者総数で45%増(600人増)、ピークは7月29日で日毎陽性者12万人、このピーク値は、ワクチン効果の減弱で51%増(6.1万人増)です。つまり、ワクチン効果の減弱がないとすると、第7波は、ほぼ半分になります。
減弱があったとしても、ブースター接種の効果は絶大で、第7波でブースター接種がない場合(図1、2の橙色)は、ピークで43万人(3.6倍)、陽性者総数で1530万人(3.4倍)、死亡者総数で4400人(3.3倍)となります。
2.オミクロン株及び第7波の特徴
図3は、日本のこの2年半の陽性者数、60歳以上の陽性者数、死亡者数の変化と、厚労省発表の重症者数です。重症者数は、その日ベッドを占めている数なので、日毎新規陽性者とは質的に違う観測量ですが、連載⑳で示したように、重症者数を7日シフトバックしてやれば直接新規陽性者数と比較できる量です。
図3は、オミクロン以前では、7日シフトバックした重症者数(水色)と60歳以上の陽性者数が、大体リンクして変化しています。また、逆に7日後方シフトし、0.05倍したもの(橙色)が死亡者数とおおよそリンクしています。即ち、60歳以上の陽性者がほぼ1週間で重症化し、2週間後、致死率0.05で死亡していたと言えます。
ところが、オミクロン以降、この関係は大きく変化しています。第6波に入り、重症者数は、60歳以上の陽性者の10%程度に減少し、第7波の現在では更に数%までになっていますし、致死率も1桁ほど落ちています。山火事理論では、初期上昇フェーズのデータから感染力、致死率を既に求め、第7波のピークを7月29日、陽性者を12万人と予測しています。将来の未知の変異株が強毒性を持つ可能性を否定はしませんが、図3は、これまでのコロナとは違った取扱いを考える時期に来ていることを示唆しています。