波紋広げる「10歳少女中絶」のその後

Douglas Rissing/iStock

女性の中絶権を否定する米最高裁判決で揺れるアメリカ社会。

その直後、中絶禁止法が発効したオハイオ州に住む10歳の少女が、レイプによる妊娠を中絶するために、規制の緩いインディアナ州に出かけて手術を受けたニュースが世界中に広まる中、中絶反対の右派ジャーナリズムだけでなく、最も信頼度の高いウォール・ストリートジャーナル(WSJ)まで「この少女が実在する証拠はない」とする社説を掲げた翌日にレイプ犯が逮捕・起訴され法廷に立っていたと地元紙が報じる、というマンガみたいな展開を、前回ブログで紹介しました。

もしかしたら、WSJの論説委員会メンバーに何らかの処分が下されるんじゃないかと、フォローしていたら、この少女の中絶に絡む波紋はさらに広がっていました。

この件で、「中絶の天国」のように思われたインディアナ州では、これを機に、中絶の規制強化の動きが州議会共和党内で高まっている、と最初に10歳の少女の中絶を報じたインディアナポリススター紙(インディスター)が19日付けで報じています。

この動きを先取りするかのように、共和党員でインディアナ州の司法長官Todd Rokitaが、WSJのトンデモ社説以前に、10歳の少女の存在に何度も疑問を投げかけたFox Newsに出演し、中絶手術をしたCaitlin Bernard博士について「必要な報告に失敗した過去を持つ、医者として活動する中絶活動家だ」と非難し、「我々は、バーナード医師が少女の件を当局に報告していなかったという証拠を集めている」と捜査に乗り出していることを言明しました。

これに応じて、番組ホストのJesse Wattersは、インディアナ州の中絶反対グループが4年前に出した「児童の性的虐待を報告しなかったという苦情のあった9人の医師」のリリースにバーナード医師の名前があると、またまた中絶反対の共和党にすり寄りました。

しかしRokita長官の指摘は、すぐにインディスターの報道で否定されます。「バーナード医師は、インディアナ州保健省、児童サービス局に少女の中絶を手術の2日後に報告していたことを公的記録で確認した」と14日に報じたからです。

バーナード医師も続きます。彼女の弁護士が、Rokita長官を相手取って、「インディアナ州の医師免許データベースにはバーナードの懲戒記録はなく、手術をしただけでRokita長官が捜査に乗り出すと言明したのは許せない」と「名誉毀損」につながるという最初の法的措置に乗り出した、とInsiderが19日に報じています。

全米の産婦人科医も立ち上がっています。カリフォルニアの産婦人科医で著名な医療ジャーナリストというJenifer Contiさんの呼びかけで献金サイトGoFundMeに「バーナード医師を支援しよう」という名目のアカウントが5日前に立ち上がり、今日、日本時間21日の昼段階で献金額は35万ドル(5千万円弱)に近づいています。

その趣旨は「困っている子供に思いやりのある医療を提供してくれたことに産婦人科医の同僚として感謝する。彼女は厳しい監視の目に晒され、緊急の支援と家族の安全を必要としている」というものです。もう一つ、ジョージタウン大法学部の教授も同様のアカウントを立ち上げましたが、Contiさんの存在を知り、9000ドル近く集めた時点で中止、送金したとのこと。

これだけの献金があれば、Rokita長官相手に裁判が始まっても、資金的には問題ないかも、というところです。

あ、当初のお目当てのWSJ論説委員会への処分があったかどうかは、まだわかりません。日本だったらどうかなあ?アンチ安倍色に塗れた某大新聞の「川柳欄」、SNSで大炎上だけど、こっちも処分はないようだしなあ・・・

蛇足ですが、Democracy Nowの共同創設者Amy GoodmanとNiemanLabのLaura Hazard Owenのこの問題と報道のあり方に関する対談では、Goodmanが「少女の中絶は薬によるものだった」と発言していました。


編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年7月15日の記事より転載させていただきました。