私が3年前に日本の書籍、教科書の輸入販売事業に参入した時、日本の出版社の社長にあいさつした際、「アマゾンを倒します」と言って失笑を買った話をしたと思います。結論から言うと私のところで輸入販売している書籍や雑貨はアマゾンと比べて価格の差はほぼ解消してきています。モノや送る場所によって価格の差は出ますが、価格差は数%のプラスマイナスに収まっています。
3日間出店していたバンクーバー最大のアニメフェスティバル「アニレボ」は弊社初出店ということもあり、売れ筋予想と在庫のバランスが難しく、機会損失も出ましたが売り上げは想定の2.5倍となりました。それ以上に販売の勉強をさせていただきました。一日8時間を3日間、狭い展示販売場所に張り付きながら売れ線商品を前に出し、展示品のトップラインを1-2時間ごとに変え、希少品は奥に展示しながら客対応をしました。目立ったのが価格チェックする客です。アマゾン価格をスマホで見る人が多いのです。面倒なのでうちのスタッフがアマゾン価格をスマホでみせて「うちの方が安い」「ほとんど同じ」「ちょっと高いけれど今、ゲットできる!」とアピールしてご納得いただいたケースもしばしばです。
なぜ、アマゾンほどの巨大企業と私どものような零細が同じステージで勝負できるのでしょうか?それはアマゾンも私どももオリジナル商品ではないこと、それを輸入販売するだけなので仕入れ価格と輸送のコスト、間接費をいかに下げるかが勝負になります。私が「アマゾンに勝てる」と思ったのは彼らがプライベートブランドを作っているわけではないので「わたしゃ、怖くないね」と初めからさほどライバル視していなかったのです。これが一般の方どころか出版社の社長にもわかってもらえなかったのです。
輸送はどうでしょうか?私どもは彼らのように自前の飛行機は持っていません。ですが、業者間取引している流通ルートを確立しており、毎週航空便もあります。船便は年5本ぐらいまで増えましたが、年8本以上出せれば更に1割以上の価格削減は可能でしょう。
そして最大のポイントは間接費です。とにかく、従業員はトロントと合わせて片手で余る人数しかいません。倉庫は自前の場所があるし、バンクーバー空港には通関業者とシェアしている場所もあります。つまり、コストを極限に削り取っています。マーケティングはインスタもありますが、地元雑誌に書評などを寄稿しながら宣伝をしているので掲載料が非常に安くすみます。
このようにさらっと書いていますが、実は他にも隠されたアイディアと他人がまねできない輸出入のスキームは工夫はたくさんあります。一般の人が簡単にできるわけではないのですが、零細企業の一部門の事業ですらアマゾンと価格を競い合えるということです。
実は私はアンチ大企業派でどうにかして連中に勝てないものかと昔から苦労をしていました。かつてカフェを経営していたころ、ポスター1枚作るのにデザインや写真といったコストが印刷代に上乗せされるとたった1枚のポスターに時として万円単位のお金がかかったのです。一方、近くにあるスタバのポスターはよくできていますが、1枚当たりのコストはとても安いものでしょう。なぜなら世界全店で同じポスターが使えるからです。その時、大企業にはかなわないと思ったのです。
ただ、個店の魅力は出すべきだと考え、地元の人に愛される店づくりを目指しました。達成できなかったことは、客とスタッフの軽いトークでした。理由はスタッフがワーキングホリディの方など日本人にはこちらの人の駄話ペースが難しかったのです。コーヒーもサンドウィッチも作るのは上手だし丁寧なのですが、小さなカフェの個性という点が引き出せなかったのです。
私は今、毎週必ず行く飲み屋があります。日本人はまず知らない、えぇっと驚くような店です。カウンターに10数名、テーブルに20人ぐらい座れる程度の小さな店ですが、私がカウンター席に「招待」されるまで1年ぐらいかかったと思います。なぜならそこは常連のための特等席で店のママ(日本的な綺麗な方ではなく、入れ墨いっぱいでめったに笑わなくてちょっと怖い感じの方です)が店を切り盛りします。L型のカウンター越しに常連が会話をし、ママが全体を制御するという仕組みです。私が行くとなんら注文することなくビール、2杯目も同じビール、3杯目が赤ワイン、その間にハンバーガーとポテトが自動的に出てきます。最後、もう一杯飲む確率は5分5分なので「どうする?」と聞かれます。このサービス、他の店では絶対に期待できません。もう店に溶け込んでいるのです。
このママの面白いのは「ヒロ、さっき隣でしゃべっていた人の名前、なんていうの?常連なんだけど名前、忘れたわ」とか、先日ふとカウンターの奥を覗き込んだら「ヒロ」って名前が書いてあったのもかわいいなと思います。こういうのが個店の努力であり、魅力でもあるのです。
その点、チェーン系のレストランに行っても私は何も楽しくありません。決まりきったあいさつでマニュアル通りのサービス。もちろん、それに安心感があることもあります。知らない街に行ったらその方が楽と言ってしまえば楽。だけど、地元の良さを知るチャンスもないということです。
八百屋や肉屋、魚屋で店の人としゃべりながら商品を買うのはとても楽しいです。最近、私は大手のスーパーは月に1-2度しか行かず、あとは個店で買うようにしています。私も零細企業経営者だから小さな八百屋でレジのおばちゃんが「今日も忙しそうにしているわい」と思うと奇妙にほっとしたりするのです。
大手もいいけれど個店は捨てたものではないでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月1日の記事より転載させていただきました。