倹約するな、未来へ投資しろ

金融庁は、勤労層の国民に対して、豊かな老後生活のための資産形成を推奨している。しかし、その施策の矛盾は、勤労層が遠い先の豊かな老後生活に備えて原資を積立てることは、積立てる資金を倹約によって捻出する限り、現在の消費を抑制させる効果を必然的に伴うとことである。実は、未来の豊かな消費のための現在の倹約よりも、むしろ、未来の倹約を前提にした現在の豊かな消費のほうが経済成長に寄与するのではないか。

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問題は、より深刻に産業界に露呈している。つまり、産業界の倹約、即ち、利益を出すために積極的に売り上げを増やそうとするよりも、消極的に費用を削減しようとすること、および、産業界の未来への不安、即ち、手元流動性を消費せずに危機に備えるものとして過剰に留保することは、経済成長の抑制効果をもたらし、倹約と不安が倹約と不安を増幅する悪循環を生じているのであって、これは個人における倹約と老後への不安がもたらす悪循環と全く同じ構図である。

企業の経営効率の改善によって生じた余剰は、未来の不安のために留保されたのでは意味がなく、未来の成長のために投資されなければならない。この未来への投資、投資がもたらす成長こそ企業経営の本質である。悪循環が断たれるためには、未来の不確実性が暗い不安から明るい成長の可能性へ転じられ、成長の可能性のための投資がなされることが必要であり、そして、可能性が事実としての成長につながったときに、悪循環は好循環に転じるのである。

個人の家計についても、必要な消費までも切り詰める倹約ではなく、不要な消費をなくす家計の合理化が必要なのであり、合理化によって生じた余剰は、老後の不安に備えて預金に留保されるのではなく、豊かな老後のために投資されなければならない。そして、投資された資金が増殖して豊かな消費に充当されたとき、悪循環が好循環に転じるのである。

このとき、いわずもがなのことだが、投資された資金は増殖しなければならないわけであって、ここに金融庁が金融機関に対してつきつけている資産運用の高度化という課題があるのである。

しかし、投資といえば、自分自身に対する投資こそ、本来の投資である。自分自身への投資により人材価値を高め、高度な専門性を身につければ、より大きな所得が得られ、より長く働くことができ、より豊かな暮らしができる、これこそ家計合理化の真の目的である。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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