電気代の高騰は研究機関も直撃

2021年4月に存在していた706社の新電力会社のうち、2022年3月までに倒産・廃業・撤退していた会社の数は31社に及ぶ。日経BPの6月14日付けのニュースではこの数は104社と急増している。

ロシアのウクライナ侵攻でヨーロッパの天然ガス価格が高騰して電気代が急騰しているとのニュースが流れていても、「スーパーコンピューターや富岳のような大型施設では電気代は大変だな」程度の思いだったが、私の研究所でも他人事ではなくなってきた。

東京電力HPより

2000年前後の東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンターのスーパーコンピューター施設の電気代が1億円程度だった。これは、コンピューター施設の空調装置に膨大な経費がかかったからだ。家庭用のパソコンでも空調のファンが止まると一気に温度が高くなり、故障の原因となる。絶対に止めることのできない空調設備などもある。例えば、動物センターや薬用植物センターなど、温度管理が不可欠だ。

コストを抑えるために新電力会社に頼っていると、それらからの供給が止まれば、新電力会社から従来の電気会社に切り替えざるを得ない。それだけでもコスト高となるが、最近の電気代の上昇を加えると、とんでもない負担増になる。電気を大量に消費する機器類や施設を抱えていれば、本当に大変な事態となる。

スパコンや大型機器を止めれば電気代は節約できるが、それでは研究活動に大きな支障が生ずる。政府は、イノベーションを推進すると言っているが、電気代の高騰はイノベーションを生み出す研究活動そのものを停滞させるのだ。

コロナ感染症でも、医療のデジタル化・AI化でも、現場感覚のない人たちが差配しているから、日本はおかしくなっている。岸田総理は耳を傾けることに長けているそうだが、傾ける相手が偏ると当然ながら適切な判断はできない。是非、われわれ庶民の声も直接聞き取って欲しいものだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。