米国のトップは後期高齢者?世代交代が進まない要因

二大政党のリーダーは後期高齢者?

アメリカにおいて大統領選挙は国家的行事であり、国内をお祭り騒ぎにし、海外からも熱い視線を送られるイベントであるはずだ。しかし、複雑な政治力学が絡み合い、2020年の大統領選と同様に、2024年も再びジョセフ・バイデン大統領VSドナルド・トランプ前大統領の対決となりそうな様相が帯びつつある。その現状にアメリカ全体が今大きくため息をついている。

世論調査によると、アメリカの有権者は党派問わず、総じて2024年大統領選が前回の再来になることを嫌がっている。アメリカ人の71%はバイデンが再出馬を望んでおらず、64%はトランプ再登板を望んでいない。バイデンに至っては民主党支持者の半数以上に再出馬を望まれておらず、共和党支持者の69%から再選を求められているトランプ氏とは対照的である。

この二者に刷新性を有権者が感じられないのは、飽きだけではなく、候補者の年齢も当然理由の一つである。バイデン氏とトランプ氏は世界保健機構の定義によれば両者とも後期高齢者の部類に入る。バイデン氏は2024年になれば82歳、トランプ氏は78歳となっており、後期高齢者として区分される75歳を優に越している。

アメリカの平均年齢が約38歳であることを考慮すれば、二大政党の事実上のリーダーが高齢の男性たちによって占められている現状に対して、有権者が自らの関心ごとが反映されず、それに不満を感じるのは仕方のないことであろう。

まとまれない共和党

しかし、大半の有権者が2020年のリフレインを望んでいなくとも、現状の硬直された二大政党間の政治構造が継続されたならば、2024年も同じメンツで大統領選が闘われることは確実だ。

現在、アメリカの政局に大きな影響力を与えているのがトランプ氏の存在であり、彼に向けられる激しい熱狂と憎悪が2020年が繰り返される可能性を高めている。

トランプ氏は党内で影響力を誇っている要因は、非トランプ派が結集できていないことに大きな原因がある。トランプ氏の強みは党内で独自の支持基盤を獲得していることであり、非トランプ系の共和党にはそのような人材がいない。ジョージア州の予備選の時のように、非トランプ派が結集して、トランプ推薦候補を倒すような事例も出てきたが、選挙に勝ったケンプジョージア州知事が露骨なトランプ批判をしなかったこと、彼が共和党受けする極めて保守的な知事だったことを考慮すれば、非トランプ派が参照できる事例として再現性は低い。

大々的に反トランプキャンペーンの狼煙を共和党内で起こして成功する可能性はあるかもしれないが、これまでのトランプ氏の被害者たちの末路を見ている人々はそれを躊躇している。2016年にトランプ氏の口撃により、有力視されていた候補がなぎ倒されていった過去、現在進行形でトランプ氏を弾劾しようとした共和党政治家が引退、又は予備選での敗北に追い込まれていく光景が頭をよぎれば、いくらトランプを嫌悪しようとも、共和党のリーダーの座からはおろすことができない。

民主党の伝統をぶち壊したトランプ

そのように消極的ではありながらも共和党がトランプを三度大統領候補に祭り上げられる素地ができると、今度は民主党もバイデン支持で行かざるを得ない。

2016年の大統領選での敗北、4年間のトランプ政権は民主党支持者にとって悪夢であった。慣例を度外視して、国内の分断を煽り、挙句の果てには議会襲撃事件を引き起こしたトランプ氏を多くの民主党員は脅威と見なしている。民主党内の反トランプ感情が強すぎるがあまり、2016年には主流派と左派で分断していたが、2020年大統領選の際は民主党は反トランプを旗印にまとまることができた。

一糸乱れぬ統制が乱れ、バイデンに対抗する人物が左派側から出れば、2016年のように棚ぼた的な形でトランプ氏が勝利してしまうリスクがある。そのリスクが存在する限り、民主党は2020年と同様に妥協策としてバイデン支持に動かざるを得ない。

ちなみに候補者の選定で妥協に走るのは民主党の伝統にそぐわない。「民主党は恋に落ち、共和党は行動を共にする(Democrates fall in love. Republicans fall in line)」という政治的な決まり文句がアメリカにはある。「行動を共にする」という表現が示すように共和党員は誰が大統領候補であっても、保守対穏健派の内部対立を乗り越え、最終的に決まった候補で妥協する傾向がある。ジョージ・マケインやミット・ロムニーといった穏健派が共和党大統領候補になりながらも保守派が支持が離れなかったことがその傾向を証明している。

一方、民主党は全く無名の候補であっても、「恋に落ち」てしまい、大統領候補にしてしまう。例を挙げると、ジョン・F・ケネディ、ジミー・カーター、直近ではビル・クリントン、バラク・オバマといった、政治経験が短い人物が民主党の大統領候補に選ばれ、大統領の職を手にする事例はいくつもある。

その伝統を考慮すれば、バイデン氏が「トランプに勝てる」という指標で、党内がまとまり、打算的に2020年の大統領候補に選出されたいう事実は、異例である。同時に、トランプ氏がいかに共和党だけではなく、他党である民主党にも影響を及ぼしているかも分かる。

実際は人材が豊富な両政党

このように、トランプ氏を中心とした政治力学が作用し、2024年大統領選は大半のアメリカ人が望まない候補同士の直接対立となりそうだ。

だが、共和党、民主党共に、有望な人材を多く擁する。共和党内だと、フロリダ州知事のロン・デサンティス、前副大統領のマイク・ペンス、そしてテキサス州選出の上院議員であるテッド・クルーズ。民主党内の場合は、ハリス副大統領、ブディジェッジ運輸長官、さらに大穴ではミシェル・オバマ前大統領夫人が潜在的な大統領候補として取りざたされている。両政党とも、大統領候補となれる人材はごまんといる。

だが、上記でも記したアメリカ政治の硬直化された構造が維持される限り、これらの人材は中々党の新しい顔になれず、アメリカ政界の世代交代はまだまだ先になりそうだ。