インフレに苦しむアルゼンチン、政界に救世主登場

今年のインフレは90%に

20世紀初頭の大国のひとつアルゼンチンがまた経済苦境に陥っている。今年のインフレは当初50%前後が予測されていたが、今では90%に至る可能性が濃厚となっている。

2012年5月から2022年5月までの累積インフレは2276%となっている。(6月12日付「イ・プロフェシオナル」から引用)。

なぜアルゼンチンはインフレ率が高い国なのか? その主な理由は以下のようなことが挙げられる。

⇒アルゼンチンは輸出への取り組みに積極性がなく、外貨が常に不足気味。例えば、ある商品価格が上昇すると、その商品の輸出向けを国内に向けさせて商品の供給を増やし需給を上回るようにさせて価格を下げようとする傾向にある。それが功を奏しないのが分かっていても政府は繰り返しその過ちを犯している。

  • アルゼンチン人は自国通貨ペソよりも米ドルを信頼して米ドルを持とうとしている。だからペソはドルに対し常に下落する傾向にある。これがインフレをさらに高める。
  • 政府の財政支出は常に赤字で、通貨を発行してそれを補填している。なぜなら8回もデフォルトした国だ。外国から投資するには魅力の無い国。よって資金が集まらないからだ。
  • 政治はポピュリズムに走る傾向にあり、倹約する精神に乏しい国だ。
  • 商いは次のインフレ上昇率を考慮して価格を設定する際にその上昇率を含んだ価格を設定する傾向にある。それがさらにインフレを誘発している。

このような理由からアルゼンチンでは高いインフレは日常茶飯事の出来事となっている。物価が3%とか4%とか毎月上がる国だ。まともな経済運営は不可能である。

遂にスーパーマンを誕生させた

そこでアルベルト・フェルナンデス大統領はスーパーミニスターを入閣させることにした。この人物の名前はセルヒオ・マサ氏。現在まで下院の議長を務めていた人物だ。50歳という政治家としては若いが、政界における影響力は絶大なものをもっている。マサ氏は経済省を始め生産開発省、農牧漁業相を配下に置くスーパーミニスターという存在となった。これが意味するものはアルベルト・フェルナンデス大統領は名目的に存在しているだけで、実質の政権の運営はマサ氏に委ねられたということだ。

現在のアルゼンチンの問題は、副大統領クリスチーナ・フェルナンデス氏が政権運営の障害になっているということだ。彼女は政治を理性ではなく感情で運営していく傾向にある。フェルナンデス大統領の政策にいちいち口をはさみ、難癖をつけていくのが常である。

例えば、IMFへの負債の返済についてもフェルナンデス大統領の指揮のもとにマルティン・グスマン前経済相(つい最近辞任)がIMFと交渉して合意に結びつけた。それに対してもクリスチーナ副大統領は反対を表明し、結局グスマン氏を辞任させた。その後任に就いたシルビナ・バタキス氏ではあるが、彼女が手腕を発揮しようにもそれに副大統領が邪魔したのでは彼女は何もできない。

フェルナンデス大統領はクリスチーナ副大統領を解任しようとしても、それは容易ではない。何しろ、彼女は一度大統領に成って8年政権を担った人物であり、しかもフェルナンデス氏を大統領候補に選んだのも彼女だ。彼女が大統領に立候補したい意向をもっていたが、彼女は汚職訴訟を抱えており選挙戦を不利に戦わねばならないということで、フェルナンデス氏を大統領候補にした。そして、自らは副大統領候補として選挙戦を戦うことに決めたという経緯があった。だからこのコンビが勝利した時点から権力はクリスチーナ副大統領が持っていると評価されていた。その状態が今も継続しているということだ。

今の時点では、クリスチーナ副大統領への支持率は低いが、マクリ前大統領の政権下で経済が不振にあった時はクリスチーナ副大統領をまた大統領にしようという動きがあった。

そこでフェルナンデス大統領はクリスチーナ副大統領の口を封じるだけの力のある政治家を閣僚に加えることにした。それがマサ氏である。マサ氏もフェルナンデス大統領と同じようにクリスチーナ氏が大統領になって第一閣僚(首相)に就いた経験がある。彼女の政権下で最初に首相になったのがフェルナンデス氏であった。しかし、双方の政治姿勢に明確な違いが鮮明となり、フェルナンデス氏は辞任。その後任に就いたのがマサ氏であった。当時のマサ氏はまだ43歳であった。しかし、彼も前任者と同じく双方に意見の相違が発生し辞任するという経緯がある。

マサ・スーパーミニスターは次期大統領のポストを狙っている

マサ氏はクリスチーナ副大統領の夫のキルチネール元大統領の政治思想とリベラリズムを合わせた第3の道を歩み始めていた。目指すはアルゼンチンを経済的に発展させたカルロス・メネム元大統領のリベラリズムを主体にした政治イデオロギーを踏襲することである。また個人的には地方の政治家とも絆を強め、米国との関係も強化した。マクリ氏とシオリ氏の決戦投票になる前の予選投票では3位置に位置する成績を収めた実績もある。この決戦投票でマクリ氏が勝利し大統領になった。

マサ氏はクリスチーナ副大統領を黙らせる能力をもっている実力者だ。国の経済を立て直すには彼女の干渉があっては何もできない。

これからマサ氏は早急にペソの下落を抑えるべく勇断を振るって行くことになる。マサ氏が経済の立て直しに成功すれば、次期大統領のポストは彼に転がり落ちるのは確実である。