利上げする民主国家、利下げする権威国家:日本はどっち?

中国が今年3度目の利下げを行いました。ある程度予想の範囲でしたが、中国の景気が芳しくないことを裏付ける形となりました。直接的な背景には秋の共産党大会を控え、国内経済が底打ちし、反転ムードのきっかけを作ることだろうと思われます。

このところ、話題になっていた住宅ローンの不払い運動も政府にとっては頭痛の種でしたが、中国政府が経営難に陥っている不動産開発会社の着工済み案件についてその完成を急がせるために政府系金融機関を通じて資金援助する計画があることを発表しました。その金額4兆円。但し、この資金はあくまでも着工中案件の完成に限るという条件付きであることからいかにも目先の火消しという感じに見えます。

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「なりふり構わず」というのは権威国家の特徴かもしれません。政権を維持するためには何でもやるし、それが異例中の異例のことでも当然のごとく行います。「政府はそこまでして民のことを思っているのだ」というメッセージでありましょう。民は「やはり、政府は信頼できる。最後、すがればどうにかなるものだ」ということでしょうか?

権威国家に於いて経済成長が必ずしも第一義ではなさそうだ、というのは中国、ロシア、トルコを見ているとそれを強く感じます。ロシアは7月10日に今年4回目の利下げを行いました。同国の7月のインフレ率は15.5%でしたが、それでも利下げを行うのはインフレの鎮静化よりも景気対策、ひいては国内の様々な不満のガス抜きをするということでしょう。

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トルコに於いては8月18日に21年12月以来の利下げを行いました。インフレ率は80%を超えますが、それでも利下げに踏み込まねばならないほど経済が悪化しているということであります。経済専門家からは「インフレ率が非常に高い中で利下げするのは全うではない」という意見が圧倒しています。今回の利下げは1週間物レポ金利を14%から13%に下げたわけですが、インフレ退治を主眼とした金利調整能力はこのぐらいの高さになると経済全般を見ると意味がないのではないかと思います。よってトルコ中央銀行が利下げをして景気対策に重点を置いたという意味もわからないではないのです。

一方、今週末に控えるジャクソンホールでの金融当局者の集まりでは物価高対策と利上げ幅がテーマになってくると思います。私が大所から見た感じでは民主主義国家では国民の声が金融政策に反映しやすいと思います。物価高→生活苦→政府への声→利上げを通じた対策実行 という流れが忠実に再現されます。

ただ、先週の土曜日の本稿でも呟いたように「物価高対策=利上げ」だけが本当の対策なのか、昔の単純な社会とは大きく異なった今、物価高の原因も含め、よく考えるべきではないかと思います。

少なくとも上記三つの権威国家のポジションは「物価高ではあるけれどそれより景気対策にシフトした」という点では共通しています。ではアメリカはどうなのでしょうか?パウエル議長はもともとハト派に近い人でさほど利上げを手放しで推進する方ではありませんでした。私には毎度の記者会見を画像越しに見ていて「この人は本心を述べているのだろうか、それとも統計データとFRBの意見を総括しているだけだろうか?」とやや疑念を持って聞くこともしばしばあるのです。

アメリカも秋に中間選挙という大事なハードルがあります。バイデン大統領は国家運営の責任者として物価高を抑え込もうとそれなりの努力はしています。とすれば今、アメリカに必要なのは物価高対策からアメリカが経済の自信を取り戻し、ムードを盛り上げることも一案なのかと思うのです。それ以上に働かなくなった人たちを労働市場に戻す努力が必要でしょう。そのモチベーションは国家運営者が提示することだろうと思います。

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現時点ではアメリカの9月の利上げは75bpsから50bps幅が予想の中心ですが、8月の雇用統計、インフレ率の結果を見た上での9月の会合ですので私はいまだに50bps-25bpsの予想を崩していません。アメリカ、カナダの企業景観の落ち込みは思って以上に足が速いというのが肌感覚です。

最後、日本ですが、日銀の今行っている金融政策はある意味、権威主義的であります。他の国と違うのは日銀という金融部門が独自の判断を行い続けていても、それを国民や政府、金融機関含め、誰も文句を言わないというのが奇妙な構図なのです。政府の政策についてはあれだけ揶揄する声が多いのに政府から独立している日銀の金融政策については誰も声を上げない、つまり、やりたい放題だという点に於いて「黒田天皇化」にさせたのは誰なのか、これはこれで一つのテーマとなりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月23日の記事より転載させていただきました。