日野自動車の内部報告書ってどうしてバズってるの?と思ったときに読む話

データ偽装問題が発覚した日野自動車ですが、先日公開された調査委員会の報告書が大きな反響を呼んでいます。

【参考リンク】日野自動車の報告書が「組織の閉そく感・末期感」にじむ地獄の内容だった→「弊社かな?」の声も大量に

「とても他人ごととは思えない」「停滞する日本経済の象徴のようなケースだ」といった声が散見されます。

筆者自身も一読して「これは日本企業あるあるだな~」と言う印象を持ちましたね。

日野自動車社内では何が起こっているんでしょうか。そして、なぜ少なくない数のビジネスパーソンが既視感を抱いてしまうんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。

日野自動車株式会社HPトップ画面より

日野自動車の報告書に見る日本企業の黄昏

成長期から安定期を経て停滞期にさしかかっている日本企業は、びっくりするほど社内の雰囲気が似てくるものです。その特徴はだいたい以下の5つですね。

・成功より失敗がクローズアップされがち

日野自動車の風土は、助け合いではなく、犯人捜しと思う。責任はどこか?が最優先となる。(調査報告書 266p)

「前年比売り上げ200%目標!」みたいな分かりやすい目標が掲げられているスタートアップと違い、そういう会社にはわかりやすい目標がありません。

そりゃ経営者の頭の隅にはあるんでしょうけど、組織全体にはまったく共有されていないんです。末端の従業員に聞くと会社の決算も予算も全く知らないし興味ないですみたいな人がほとんどだったりします。

で、なぜかそういう状態になると、失敗をすることが以前の10倍くらい深刻な意味を持つようになり、組織を挙げてミスや粗さがしを行う雰囲気が醸成されるようになります。

・みんなが「見て見ぬふり」をしている課題がある

声を上げた人が自分でやらなければいけない風土がある(数年前の会社スローガンが「私がやります宣言」だった)。是正した方が良い事があっても、声を上げると自分が動かなければならなくなる為、結局、自分に影響が無い限りは敢えて指摘をしないような雰囲気になってしまう。問題点に気付いていても教えてくれる人がとても少ない。(調査報告書 265p)

ある程度大きな組織には必ず「なぜ存在しているのかわからない仕事」「誰が担当なのかわからない仕事」が必ず存在します。

みんな薄々「この仕事、意味なくない?」とか「このケース、放置しとくと後々大問題になるリスクがあるんじゃないか」とか腹の底では考えているんですけど、こういう会社ではほとんどの人(管理職も含め)が見て見ぬふりを続けています。

・部署同士の連携が悪い、というより真剣に仲が悪い

つまり、各部署は、「自工程完結」の名のもとに、自らが担当する業務のみの部分最適を追求して職責を果たしたつもりになりながら、その内実は、与えられた範囲での役割をこなしていただけで、自らの部署に余計な仕事を持ち帰らないというセクショナリズムの考えに陥っていたように思われる。

このような考えがより進んでいくと、縄張り意識から他の部署への敬意を失い、組織内での序列という内向きな価値観に固執するようになってしまう。(調査報告書 275p)

全く接点のない部署同士ならニュートラルですが、そうした会社では多少なりとも業務上の接点のある部署同士はえてして関係がよくありません。

と書くと「主導権争いや手柄の取り合いならどこだってあるぞ」と思う人もいるでしょうが、そういう前向きなものではありません。

「〇〇部門のせいで失敗した」「業績が悪いのは〇〇のせいだ」みたいな失点の押し付け合いで仲が悪いイメージです。

・管理職に人望が無い人が多い

部長クラスが保身(自分が責められないように)に走らなければ、もっと部下からの訴えに耳を傾ける人ならば、こうはならない。従業員は会社に呆れている。期待もしていない。どうせ言ったところで誰もなにもしてくれないと諦めている。(259p)

そして、そういう企業で匿名アンケートなんかをとると、会社の抱える課題として「管理職の適性」が必ずトップ3に入ります。

曰く「保身第一で責任を押し付けてくる」「好き嫌いでマネジメントする」「失点しなかっただけの人なので今更何もできないししようとしない」etc……

どういう基準で出世させてるんだろうと不思議になるくらいボロカスに書かれていることが多いです。

・40~50代にダークマターみたいなオジサン集団が存在する

また、従業員自身に共通する傾向として、社内の幅広い部署に「40~50代を中心としたダークマターみたいなオジサン社員が存在している」というものがあります。

“ダークマター”と言うのは筆者が名付けた呼称で、要は「なにか成果を追求するでも出世を目指すでもなく転職意欲もゼロ、かといってなにかやらかすこともなく、熱を発しないので限りなく存在を感じられないグループ」です。

恐ろしいことに会社によってはそういうダークマター層が3割を超えることもあります。

たぶん、ここまで読んで「うちの会社、少なくとも3つ以上は当てはまってるな~」と言う人は少なくないんじゃないでしょうか。

それくらい、よくある話なんですね。そして報告書を読むかぎり、日野自動車はその典型だと言えるでしょう。

以降、

伸びしろが無くなると、人も組織も守りに入る

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2022年8月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください