全数把握を自治体に決めさせるのは国の責任放棄

岸田総理が「コロナ感染陽性者の全数把握をやめてもいいかどうか自治体の判断に委ねることにした」とアナウンスした。この無責任な姿勢は大きな批判を呼び、支持率のさらなる低下は避けられないと思う。自治体の突き上げの結果だが、自分では何もしないことを決めたと同義語だ。

厚生労働省 SakuraIkkyo/iStock

危機管理ができていなかったことが露呈

このブログでも再三再四取り上げたが、危機管理は最悪を想定した対策が必要である。PCR検査数が増えない状況を放置したために、予想を上回る感染者が出た第7波ではPCR検査の供給が需要を大きく下回った。そもそも感染者数の推移をみる限り、すでに感染実態を正確に把握しているとは考えにくい。

科学的な判断でなく、現場の窮状から後手を打つことの繰り返し

旧態然とした報告体制のために、地方自治体では手が回らなくなったために、報告制度を変更してほしいとの突き上げがあったのが、今回の混乱の原因だ。しかし、これは2類分類との整合性が取れない。2年半前の「入院病床が足らないので、発熱が続かないとPCR検査をしない」という非科学的対応から始まり、自宅・ホテル療養、全数把握の放棄など、そこには科学的な議論はほとんどない状況だ。本来はコロナウイルスの性質に呼応して、ルールを決めるべきなのだが、科学的思考が根底から欠けている。小池東京都知事が、「デジタル化の遅れが原因だ」言っていたが、まさにその通りだ。

欧米の動向にしか目を向けていなかった専門家の怠慢

これまでは、欧米などの海外の波に引き続いて、日本に波が波及していたが、今回は東アジアで大きな波が発生したという特徴がある。日本人、あるいは、東アジア人特異的に感染しやすいウイルスゲノム変異が起こっているのかどうかもわからない。単にBA5がわれわれに感染しやすいのか、われわれに感染しやすい変異がさらに加わっているのかもわからない現状だ。今回のような世界的パンデミックはこれまで経験したことがないのだから、何を基準に専門家と呼んでいるのか、そもそも論の議論も必要だ。

入国制限の矛盾

人口比で考えると、東アジアにおける陽性者数は他国よりもかなり高い。水際措置は、海外から持ち込まれる病原体をできる限り抑え込むためにあるのだが、人口当たりの感染者数を考えると水際対策の意味はよくわからない。もちろん、さらに新たな変異ウイルスを持ち込ませないという考えはあるだろうが、ここまで国内で感染者が増えると、経済的な活動の観点ではマイナス面が大きいように感ずる。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年8月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。