人間関係、過度な期待は不幸の始まり

黒坂岳央です。

筆者が心がけていることの1つに、「相手に過度な期待はしない」である。お断りしておくと、これは「まったく相手に期待しない」というのとは明確に意味が違う。代金を払ったら、支払った金額分の物品やサービスは期待するし、約束をしたら口頭でも契約書でも相手は最低限の約束は守ってくれることは期待する。ここでいう「期待の程度」はあくまで「最低限」の範疇である。

この範疇を超えて、大きな期待を寄せると人間関係は不幸が始まる。

kieferpix/iStock

コンビニ店員の接客にキレる人々

筆者が忘れられない出来事がある。昔、弟がコンビニでバイトをしていた時、彼が一緒に働いていたバイト仲間がお客さんから暴行を受けたというエピソードがある。

お客さんから質問されたことに「○○ッス」という語尾を使ったことに激昂したらしく、お客さんがそのバイト仲間を殴打する暴行をしたという話だ。「お前!店員のくせにその態度はなんだ!」という具合でキレたようだ。この他にも、コンビニ店員やパチンコ屋のバイトをする人物から、お客さんから接客態度に暴力的な行為を受けたという話をいくつか聞いたことがある。

世の中にはコンビニやパチンコなど、接客業では接客態度についてキレるお客さんが存在する。それはひとえに、相手への期待値が高すぎるためだと思う。

自分はコンビニ店員の接客態度にキレない

先日、自分はその逆の体験をした。

具体的な店名は出さないが、地元民の間で「接客対応に難あり」と噂されるとあるコンビニ店に入って買い物をした時のことである。レジに誰もいなかったので「すいません。よろしいでしょうか?」と品出し中の方にお願いをした。すると、品出し作業のじゃまをされて腹を立てたのか、仏頂面に無言でピッピとレジを通し、最後にお釣りを投げられてしまった。その日は偶然にスマホやクレジットカードを店内に持っておらず、数年ぶりに現金支払いでお釣りが発生したのだが、人生でお金を投げられたのは初めての経験だった。なので驚きはした。だが、腹は立たなかった。

「優れたロケーションであり、迅速便利に買い物ができること」。自分がコンビニに期待する機能性はこの2点のみで、接客態度はまったく気にしない。自分は接客サービスにまで、対価を支払ってはないと考えるからだ。コンビニ店員の接客態度に腹を立てる人をダメだと言うつもりはないが、あくまで自分の個人的流儀ではこう考える。

だが、これが結婚10周年や重要なビジネスマンを接待する、高級レストランやホテルでサービス料が含まれる食事であれば話は違ってくる。さすがにレジでお釣りを投げられてしまうと、自分は相手に文句は言わないだろうが、内心ムッとしてしまうと思う。同じお会計時の対応でも、相手への期待値は異なるという話だ。

他人の生き方に期待はしない

この他にも、他人への期待値が高すぎるため、勝手に相手に期待し、勝手に裏切られたと感じてしまう人たちを見ることがある。動画や記事で意見を発信していると、時々相手の生き方に不満をぶつけるケースを見たり、自分自身でそれを体験することがある。お金儲けのために相手を騙したり、意図的に不幸を量産するなど、明らかに本人の道徳性に問題がある場合は文句を言われても仕方がないだろう。だが、そうでないケースも結構ある。

これの最たるものが、芸能人や有名人の不倫や発言の炎上である。正直な話、芸能人だろうが有名人だろうが、自分自身とはまったく無関係の赤の他人である。まったく異なる価値観、人生論、生き方をする相手なので、その人が人生で何を優先しようが、何の関係もないし、相手の真意や本音など何1つ知らない状態に近い。

それなのに「誠実な人だと思っていたのに!」と過剰な期待を裏切られたと、怒っている人たちは結構いる。それを見る度に「もったいないな」と感じてしまう。全く無関係の赤の他人に一挙手一投足を振り回され、気持ちが乱高下するのはトータルで見て不幸になる可能性が高いからだ。

もちろん、応援したい人がいて、その人がうまくいくのを見るのを心地いいと感じる気持ちは理解できる。自分もひそかに応援している人物がいる。だが、ほとんどの人間はプラスよりマイナスに対して3倍程度強く反応すると言われる。

応援したい人が自分の思い通りにいって気分が良くなるのが「+1」だとすると、自分の意に介さない生き方を見て不快になる感覚は「-3」くらいになる場合が多いからだ。激情的な性格の持ち主なら、「-10」くらいに大きく振れるかもしれない。そうなると、もしも等しくプラス、マイナスのイベントが発生すると仮定した場合では、トータルで損をする可能性の方が高いことになる。

すべての人間は別個体の生き物だ。他人の生き方に期待はしないほうがいいと思う。応援はしても、過度に期待して腹を立てたり怒りを本人にぶつけるのは、もったいないのではないだろうか。最後に。「相手に過剰な期待をしない」というとなんとも冷たく聞こえるかもしれないが、それだからこそ相手が予想外に温かい対応をしてくれた時などは望外の喜びに感じることもまた、事実なのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。