なぜ米国人の寿命が2.7歳短くなったのか

New York Times紙によると、米国人の寿命が2.7歳短くなったそうだ。

米国人全体でみると

2019年 78.8歳
2020年 77.0歳
2021年 76.1歳

となっている。

ネイティブ米国人だと

2019年 71.8歳
2020年 67.1歳
2021年 65.2歳

と、なんと6.6歳短くなっている

コロナ感染症流行の影響だが、米国人全体の2.7歳に対して、ネイティブでは、6.6年も短くなっているのは、医療へのアクセスの差が反映されているように思う。米国の場合は経済学的な格差=医療へのアクセスの格差につながっている。加入している保険によって投与される薬剤が異なってくる。

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私の知人がシカゴで急病になって救急車で近くの病院に運ばれた。救急対応がなされたが、救急外来から入院病棟に移るには、高額医療費を賄えるクレジットカードが必要と言われた。なければ病院から出ていかなければならない。最近はもっと厳しく、初期から治療が受けられないという話も聞く。

米国の平均寿命は25年ほど前のレベルに戻っている。日本のコロナ感染症の治療費用は国によってカバーされている。感染症分類を5類にすると、他の病気と同じ扱いになるり、個人負担が生ずることが5類にできない要因の一つでもある。明らかに2類分類では問題となる運用を行っているが、誰も何も言わない。

シカゴでいろいろな医療環境を見て、皆保険制度というのは素晴らしい制度だと思う。その一方で、日本のデジタル化・AI化の遅れは顕著となっている。「医学のあゆみ」という雑誌が、私がプログラムディレクターを務めている内閣府のAIホスピタルプロジェクトを含む医療AIの特集を組んでいる。AI/デジタル化医療のゴールは、先端的な医療を、医療従事者の負担を軽減しつつ実現することだ。Aiやロボットの補助によって医療に温かさを取り戻すことだ。

この医療のAI化・デジタル化は、「東京や大阪にいれば助けられる病気の患者さん」を「離島にいても僻地にいても助けられる」医療を実現することだ。そして、「いつでもどこでも誰でも」が、質の高い医療にアクセスできるようにすることだ。

という自分の言葉が虚しくなる昨今だ。高齢になると、気持ちが落ち込みやすいのか?昔は理不尽な人には、相手を叩きのめすまで立ち向かっていたが、最近は馬鹿馬鹿しくなってそんな気持ちにもならない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年9月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。