岸田首相が自民党所属国会議員に統一教会との関係を断つよう指示し、これを受けて党内では、思想調査が行われている。このように特定の宗教団体を名指しで排除するのは、官庁や企業から共産党員を排除した終戦直後のレッドパージ以来の思想弾圧である。
レッドパージとは、共産党のホームページによると次のようなものだ。
朝鮮戦争の勃発(50年6月25日)と前後し、連合国軍最高司令官マッカーサーは共産党中央委員の公職追放を指令するとともに公然とレッド・パージを指示し、政府は共産主義者等の公職からの排除に関する件を閣議決定しました。
こうして、新聞、放送を皮切りにした文字通りのレッド・パージはやがて電力、石炭、化学、鉄鋼、造船、国鉄、電通など全産業に広がり、「企業の破壊者」「暴力分子」の烙印(らくいん)を押され職場から追われた犠牲者は1万3000人を超えました。
ところが今回、「統一教会の自民党からの排除」にもっとも熱心なのが共産党である。彼らは自分たちが70年前に排除された歴史を忘れたのだろうか。
統一教会は「信教の自由の枠外」だから解散させろと主張する弁護士
そしてワイドショーで「統一教会は憲法で保障されている信教の自由の枠外にある」から解散させろと主張しているのが、いわゆる人権派弁護士である。
本村弁護士
『統一教会は反社に当てはまる?→認識を改めて頂きたいのが、普通の宗教法人とは違う、組織的・詐欺的・脅迫的な団体であり、憲法で補償されている信教の自由とは枠外にあると司法判断が出てます。今後は言い訳しないで、あくまでも違法な団体として取締りをしていただきたい』#ミヤネ屋 pic.twitter.com/xZzyK3xBtE— 桃太郎🐾 (@momotro018) September 2, 2022
ここで本村弁護士が「統一教会は違法な団体だ」と断定する根拠は、青春を返せ訴訟のことらしいが、これは統一教会の信者が、それを隠して勧誘したことが違法だという2001年の最高裁判決である。
弁護士ならわかるはずだが、統一教会の信者が違法な勧誘を行ったことは、論理的に統一教会が違法な団体であることを意味しない。そんな論理が成り立つなら、詐欺罪で2003年に逮捕された辻元清美議員の所属する立憲民主党は「違法な政党」である。
「自民党は政治結社だから思想・信条で差別しても憲法違反ではない」という言い訳があるが、私企業でも「労働者の思想・信条を理由として労働条件について差別的取扱をしてはならない」と労働基準法で定めている。まして首相=自民党総裁が特定の宗教団体を排除することは、公権力による信教の自由の侵害に等しい。
憲法学者の守る人権は「お仲間の人権」
憲法学者も「これは政治と宗教の問題ではなく、統一教会は反社会的だから解散させるべきだ」という。
では「反社」とは何か。これは暴力団対策法の被害防止指針で「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義されている。要するに組織暴力団のことであり、それ以外の団体にこの定義が適用された前例はない。
宗教法人を所管する文部科学省が、統一教会をこの意味で反社と認定することはありえない。彼らが暴力で経済的利益を追求した前歴はないからだ。過去に刑事事件を起こしたことを解散命令の理由にするなら、世界中で聖職者が何万人も性犯罪をおかしたカトリック教会も解散だ。
信教の自由は無制限の自由ではないので解散命令を出すこともありうるが、それには法令に定める普遍的ルールが必要である。ワイドショーが騒いでいるから解散させるというのは、戦前に特高警察が「国体の変革」をもくろんでいるという理由で共産党員を逮捕したのと同じだ。
今回の特徴は、安保法制や特定秘密保護法のときは「人権を守れ」とか「言論の自由が侵害される」などと騒いだ憲法学者が、今回は「反社に信教の自由はない」と主張することだ。彼らの守る信教の自由や表現の自由とは、自分と同じ意見の「お仲間」の自由である。そんな自由は、スターリンもヒトラーも認めた。
私も統一教会の教義は気持ち悪いし、霊感商法を正当化するつもりもないが、彼らがそれを信じる権利は憲法で保障されている。ヴォルテールもいったように「あなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は守る」というのが、近代国家の原則なのだ。