「今も大統領」と信じられている前大統領の「standing order」

米国の共和党支持者の一部、すなわち「MAGA」は、今もってトランプを「大統領だ」と考えている。そして彼が「大統領であるべき」とする同党支持者は極めて多い。それは11月の中間選挙に向けた党内予備選で、トランプの支持する上下両院候補者の約9割が勝利したことからも窺える。

ドナルド・トランプ氏 同氏公式サイトより

そのトランプやメディアが公開を求めていた、FBIが8日にマーアラゴから文書を持ち出す令状の根拠とした宣誓供述書が8月26日、司法省から公表された。だが、その全38頁の全84項目のうち51項目がフロリダ南部地区連邦判事によって黒塗り編集(redact)されていた。

「38頁の約半分」などとする報道(「Newsweek」)もある。が、黒塗りのない最後の6頁はトランプの代理人から司法省への要求書4頁と捜索対象物件と押収財産の説明書2頁だ。他方、本文の32頁の黒塗り51項目のうち46項目は全て黒塗りで、5項目が一部の黒塗りであるに過ぎない。

黒塗されていない部分から判読した内容がその「Newsweek」などで読めるが、27日の「産経電子版」は次のように要約している。

同供述書によると、トランプ氏が退任時に持ち出し、今年1月に国立公文書館が回収した15箱分の文書類についてFBIが今年5月に調査したところ、184件の機密文書が含まれていた。そのうち25件は厳重な管理が必要な「秘密の人的資源」や外国での通信傍受などに関連した情報だったことが判明。これらの分析からFBIは、文書類が違法な状態で保管されていた疑いがあるほか、トランプ氏が一部を返還せず手元に残している可能性が高いと判断した。

記事に書いていない重要事項を供述書の原文から補足すると、先ず、トランプ周辺かとも憶測され、明らかにすればトランプ支持者が脅迫するなどともされた宣誓供述者とは誰なのか。名前は黒塗りだが「FBIワシントン支局の特別捜査官」と述べている。

彼は、FBIの捜査は本年1月18日、大統領記録法に基づきトランプの代理人を通じて15箱の記録を受領した国立公文書記録管理局(NARA)が、その中に高度の機密文書などが含まれていると知り、2月9日に司法省(DOJ)に照会した結果、開始されたとする。

が、ここでの筆者の疑問は、トランプも協力してきたと述べている様に、NARAがトランプ側と協議を行う中で1月18日に15箱が返却されたにもかかわらず、なぜこのタイミングで、協議を通じた返却要請から一転、2月のNARA⇒DOJへの照会、そして8月のDOJ⇒FBIの「BREAK=IN」に移行したのかという点だ。

宣誓供述書に添付されたトランプ代理人からDOJへの5月25日付の要求書4頁の中でも、トランプが自発的に移送を命じたことや、NARAとのコミュニケーションが友好的かつオープンだったが、残念ながらトランプ側の誠意が通じず、DOJが関与するとリークが続いたことなどが述べられている。

次に「法的権限および定義」に関する9項の記述は以下のようだ。

9.大統領令13526に基づき、いかなる形式の情報も、(1)政府が所有し、政府によって、または政府のために作成され、または政府の管理下にあり、(2)大統領令に規定されたカテゴリー[最高機密、機密、そして機密]の1つ以上に該当し、(3)その無許可の開示により国家の安全への損害が合理的に予測できると決定した本来の分類機関によって分類された場合には、機密扱いすることができる。

国の機密情報の所有、作成、管理、機密度分類など一切は大統領令に基づく、言い換えれば、大統領に全ての権限があると読める。この国家機密に関する大統領令13526は、オバマ大統領により09年12月29日に、クリントンの同12958とブッシュJr.の同13292を改訂する形で公布された。

また供述者は「証拠の出所」で、記載事実は「個人的な知識、この捜査への参加中に得た知識、および他のFBIおよび米国政府職員から得た情報に基づくもの」であり、かつ「捜査令状の申請を裏付ける正当な理由を立証するという限られた目的のため」のものなので、「知り得た事実の全てを記載したものではない」と述べている。

要するに、多くが黒塗りされた供述書以外にも、供述者が知っている事実があると仄めかしている訳だ。が、元FBI捜査官のケビン・ブロック28日の「Hill」で、「トランプが本当に深刻な連邦法違反に関与していると信じるに足る・・諜報活動の決定的証拠や同様に衝撃的なものが編集部分の中にあるとは思わない。もしFBIがそれを知っていたなら、編集されていない部分に記載しているはず」と言う。

さらにブロックは、最も重要と思われることを述べる。

これらの法令に対する刑事上の違反は、調査対象者がこれらの文書の所有、保管、転送、複写を行う権限を有していなかったことが立証された場合にのみ成立する。これは米国の誰に対しても簡単に立証できる要素だ。ただし、一人を除いては。

宣誓供述書の編集されていない部分は、トランプがこれらの文書を自宅に持つことを許可されていなかったという理由を明確にしようとはしていない。大統領として、あらゆる文書の機密指定を解除し、何が大統領記録で、何が大統領記録でないか、を決定する、法律と裁判所の決定によって確立された広範で法的に威圧的な権限を持っていたからである。

トランプと彼の弁護団は、この権限は彼がまだ大統領であったときに行使されたと主張している。従って、このようなかなり低レベルでめったに起訴されない文書指向の法令違反は証明されない。

ここで、大統領が「あらゆる文書の機密指定を解除」する「広範で法的に威圧的な権限」を持っているとしているのは、宣誓供述書が53項に記している次の供述に呼応していよう。

53.私は、2022年5月5日にブライトバートに掲載された記事(*)を知っている。それによるとFPOTUS(トランプ政権)の元高官とされるカシュ・パテルは、FPOTUSがマーアラゴからNARAに提供した記録の中から機密資料をNARAが追跡したという他の報道機関の報道を「誤解を招く」と特徴づけている。パテルは問題となった資料の機密指定をFPOTUSが解除したため、このような報道は誤解を招くと主張し(以下黒塗り)。 筆者注:(*)は記事のURL。

当初からトランプ自身も機密指定を解除したと主張しているが、そのことやPatelらの主張は「standing order」と呼ばれる事柄を指している。「政務規則」や「常任命令」などと訳されるこの語のウェブスターの解説はこうだ。

Definition of standing order

an instruction or prescribed procedure in force permanently or until changed or canceled

especially : any of the rules for the guidance and government of parliamentary procedure which endure through successive sessions until vacated or repealed

恒久的にあるいは変更されたり取り消されたりするまで有効な指示や規定された手続き。

特に:議会手続きの指導と管理のための規則で、取り消されるまで連続した会期中存続するもの。

つまり、彼らの主張は、そもそも機密文書を分類する絶大な権限を有する大統領が、例えば、私邸で執務するべく機密文書を執務室から私邸に持ち出す場合、その時点で当該文書の機密が自動的に解除されるということ。歴代大統領も大なり小なり持ち出しているという。

8月18日のCNNの「独占」記事は、そうしたトランプ側の主張を「馬鹿げている」とする、今は反目している元トランプ側近らの論を載せている。彼らは「そのような愚かな命令に近いものはなかった」と言う。が、都度の命令でないところが「standing order」の所以ではなかろうか。

果たしてバイデンとガーランドのコンビがトランプを起訴するか否か。中間選挙までは起訴せずに疑惑の中に置き、起訴して有罪にならなくとも24年のトランプ再登板の途が断てれば良いとの思惑だろうが、そう上手くいくだろうか