「有名人」になってはいけない4つの理由

黒坂岳央です。

eスポーツのウメハラ選手は、動画配信をする中で「有名人になってしまうことの苦労」を語った。少々、世間に名前が通ることには大きなメリットがある。だが、その一定ラインを超えるとデメリットも数多く出てしまうというのだ。有名人はなろうと思ってなれるものではないが、彼ら/彼女らの苦労を理解することで余計な苦労をかけない気遣いは可能だろう。

筆者は有名人とは程遠い、情報発信をしている一般人の域を出ない人物にすぎない。だがYouTubeやビジネス記事というプラットフォームに「個人の上場」をしたことで、数々のメリット享受を実感している。現時点ではメリットが優勢であり、デメリットを負うような高みにはまったく達していないわけだが、その立場で同氏の主張に私見を添えて取り上げたい。

Choreograph/iStock

1. 失敗へのバッシングが激しい

1つ目は失敗したことへのバッシングが激しくなるという点である。

ウメハラ選手は、プロゲーマーであるため「勝った、負けた」という明白な結果で判断される、とても厳しい評価のくだされるアスリートの世界で勝負されているわけで、有名になると失敗した時のバッシング度合いが厳しくなるというのだ。

確かにそうだ。特に同氏はプロゲーマー界の頂点といえる存在である。著書を多数抱え、メディアにも多数出演し活躍されている。それだけに周囲からの期待値はとても高いのは間違いない。「勝って当然、負けたらバッシング」という評価を受けるなら、フェアとはいえないと感じられるだろう。

有名になると、周囲は勝手に期待して勝手に失望やバッシングをするようになる。たとえば芸能界は品行方正は当然で、時には多額の寄付も期待されしたらしたで「売名行為でケシカラン」という意見まで飛んでくる。これが不倫や道徳的問題を起こしたと思われれば、大変な騒ぎになる。

もしもこれが駆け出し新人の失敗だと、世間の見る目は温かい応援も入るはずだ。あまりにトップ一流の高みへ登ると、バッシングのプレッシャーが強くなってしまう。

2. セキュリティコストが上がる

有名人にはファンがつく。母数が多いと、熱狂的なファンも自然に増加する。そうなるとセキュリティコストが跳ね上がってしまう。今年、YouTuberのHIKAKINさんがリアルイベントにおいて、不審者に接触されたという事件が起きた。幸い、怪我などはなかったのだがこうした事態は有名人には起きてしまう。

有名になってしまうと、住む場所のセキュリティコストは跳ね上がる。とても一般的な平屋の住居や、低層マンションに住むことなどできないだろう。堅牢なセキュリティに守られたタワーマンションかつ、賃貸物件でなければ万が一のセキュリティ事故が起きたときに引っ越しをすることもままならなくなってしまう。これは住居の選択肢は極めて狭まることを意味する。

万が一、ビジネスなどの活動がうまくいかなくなって経済的に困っても、知名度は高いまま残る。これにより、セキュリティコストは重くのしかかることになる。

3. ファンサービスが大変

同氏によると、ファンサービスは仕事の一環と考えているが負担は小さくないという。

たとえば記念写真を撮るときには、真顔や仏頂面で撮影に望むわけにはいかず、笑顔で応じることになる。だが、それが続けば、トータルでの負担は小さくなくなる。そうなれば顔の筋肉もこわばり、疲労困憊は避けられないだろう。

「嬉しいけど大変」というアンビバレンスな感情に包まれると推測できる。

4. ビジネスメリットを享受できない

有名人になれば、自然に仕事が舞い込んでくる。特に同氏ほどの知名度や実績があれば、講演に呼ばれたり書籍執筆やスポンサー収入など仕事に困ることはなくなる。

だが、仕事は増えてもそれをさばく自分の体は一つしかない。特にスター性の強い仕事は外注や自動化が難しく、体が空かなければこなすことができなくなる。「有名人になれば仕事やお金には困らない」という意見は正しいかもしれないが、実際のところ、ある一定のキャパを超えると実質的にオーバーしたメリットは享受できず、外注や機械化できない仕事の多くを断ることが多くなるというのだ。

筆者も小さなメディアを通じてほぼ毎日仕事の依頼があるが、自分のような小規模でも仕事はキャパの関係から受けられないとお断りすることは少なくない。

ビジネスで駆け出しの頃はとにかく必死だったので内容問わず、何でも誰からでも仕事はなるべく受けていた。しかし、今では報酬額などより仕事内容の面白さや長期的に期待できる効果など多面的に考慮した上で、受けたり断ったりを判断するようになった。そのため、少しはこの状況は理解できるつもりである。

有名人になることは大変である。無名の頃にはなかったはずの、数多くのデメリットも負うことになる。人生を生きる上では「どんなことにも、メリットとデメリットは常に一緒についてくる」と思わされる話だった。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。