黒坂岳央です。
「日本人は挑戦しない」と言われがちだ。実際、これは肌感覚で感じることである。筆者は過去に多国籍企業に身をおいた時は「ビジネスマンはセルフスターターであれ」と奨励されたし、オフィスの立食パーティーでは外国人役員から「日本人は緻密なプランニングが得意だが行動が遅い。フランス人はその逆だ。フランス式、日本式を融合しよう。行動せよ日本人」といった趣旨の檄を飛ばされたこともある。
この原因を科学すると、挑戦しない理由の最たるものが日本人はセロトニントランスポーター遺伝子SS型の保有率が高く、これが不安を作り出すことで行動力がないという説がある。しかし、個人的にアップデートするべきは挑戦する勇気より、やめる覚悟を持つ方ではないかと感じることが少なくない。
一度決めたルールをやめられない
一度決めたルールをやめられない。つまり、やめる覚悟をもてないことで不利益を被るケースは少なくない。
近年でいえば新型コロナ対策である。飲食店では、どこもアクリル版の仕切り板がテーブルに乗せられたまま食事をすることになる。郷に入っては郷に従え、という言葉があるので筆者はこの運用について、店舗に文句を言ったことは一度もない。だが、不便に感じる。そしてこの感染対策は効果がないと、New York Timesの記事で専門家が示した。むしろウイルスが特定エリアに滞留することでリスクが増加するというのである。
100%の結論が出た訳では無いにせよ、アクリル板が感染防止に効果があるという状況証拠もない以上、これは撤廃しても良さそうなのだが依然として多くの飲食店では採用されている。
また、「店内では飲食中を除いてマスクを付けましょう」と言われているが、これも不思議な話だ。食事をしながらぺちゃくちゃおしゃべりをして、トイレに立つ時はマスクをつけ、席に戻ったらマスクを外してまたおしゃべりしながら食事、この一連のプロセスにマスクを装着する論理的整合性はない。ウイルスが食事中は気を使って感染を控えてくれる、ということはないのだ。だが、いろんな飲食店で同じ光景を目の当たりにする。やめる覚悟がないからだ。
「効果のある感染防止策は採用すべきだが、効果がないものは採用したものもやめる」ということができない。おそらくやめたら「この店は感染防止策を怠っている」とクレームを付けられるのが怖いのだろう。
クレーム敗北社会
現代社会はとかく「生きづらい」とされる。要因は様々考えられるが、個人的に感じることの1つに「少数のノイジーマイノリティのクレームに簡単に屈することで、サイレントマジョリティーが生きづらくなる」というものにあると思っている。
筆者の住んでいる田舎の町は、頻繁に防災無線からアナウンスが流れてくる。正直、非常にうるさいと感じる。17時に夕焼け小焼けを流すことで、スピーカーの稼働チェックとするくらいなら情緒があって良さそうなものだが、「野猿に気をつけろ」「子供のいる地域で運転は慎重に」「防犯に努めましょう」など、おせっかいと感じるような、効果があるとは思えないアナウンスが頻繁に流れる。
このアナウンスにより、YouTube動画の撮影、海外とZOOM会議、子供の昼寝を何度も邪魔されてきた。苦情を言う人はいないのか?と検索したら、他の町の事例で「一度、アナウンスの数を減らしたら高齢者から”なぜやめた?市役所は税金もらっているのだから仕事しろ”と苦情が入って元に戻した」ということがあったという(これはオフィシャルな発表ではないので真偽は100%ではないが)。
これは勝手な想像だが、アナウンスをありがたがっている人は全体の少数派と推測する。多くの人は家庭内で育児に忙しかったり、会社で働いている。もしくは夜勤から帰って昼間は静かに寝ている人もいるだろう。大多数の人は、アナウンスをじっくり聞いていないし、ましてや「なくてはならない社会インフラ」という情報源という認識はしていないだろう。
だが、「一度決めたルール」をやめると、それに対して熱心に苦情を入れる人がいる。これが日本社会の変化を緩慢にする一因だろう。「こちらで合理的に決めた決断なので」と突っぱねてほしいと願うが、そうはならないことが残念である。
やめる覚悟が変化に強くする
日本は変化しないと言われる。行政も企業も、一度ルールを決めたらそのルールを遵守することが目的化するケースは数多く見てきた。だが、初期の段階で決めたルールは間違っていることも少なくない。データが不足していたことで、結論をミスリードし、それにより途中で方向転換が必要なこともあるだろう。だが、やめる覚悟が持てなければ、変化に緩慢になる。
形骸化してしまった「儀式のような無益な仕事」が行政でも民間でも行われており、これが我が国の労働生産性を低く留める一因になっているだろう。
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一度決めたことは絶対ではない。やめる覚悟を持つべきだ。日本語には「朝令暮改」という言葉があるのに、なかなか日の目を見ることがないワーディングに感じる。
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