厳しい指摘を受けた日本政府:障害者権利条約順守状況の審査結果公表

我が国が2014年に批准した障害者権利条約には、条約の順守状況を定期的に審査するメカニズムが組み込まれている。日本の第1回定期審査は2022年8月に国連障害者人権委員会で実施され、審査報告が9月9日に公表されたが、目を覆うような厳しい指摘で一杯だった。

審査報告は、冒頭で法整備が進んだ点を評価している。障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法、障害者差別解消法、バリアフリー新法、読書バリアフリー法、ユニバーサル社会実現推進法、障害者文化芸術活動推進法、障害者雇用促進法が列挙されている。

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しかし、その後には改善要求が10倍以上の文量で記載されている。ポイントを紹介する。

障害者の社会参加を阻むのは社会の側に壁があるからで、社会の側に変革が求められるというのが条約の基本的な考え方である。これを障害の「社会モデル」という。これに対して、目が見えないので、足が悪いので、できる限りの治療を施そうというのが「医学モデル」という古い考え方である。

審査報告は日本の法制度が医学モデルから脱却できていないと指摘し、法制度から医学モデルの要素を排除する(eliminate elements of medical model)ように求めている。

条約の用語を不正確に翻訳している点も具体的に指摘されている。条約には外務省の公定訳があるので、それと照合する。

inclusion(公定訳は「包容」だが、「包摂」が正しい)、inclusive(「障害者を包容する(教育制度)」は、正しくは「統合(教育)」)、communication(公定訳の「意思疎通」よりも「コミュニケーション」の範囲は広い)、accessibility(「施設及びサービス等の利用の容易さ」は「アクセシビリティ」)、access(「利用する機会を有すること」は「利用すること」)、particular living arrangement(「特定の生活施設」は「障害者支援施設」)、personal assistance(「個別の支援」は「人的支援」)、habilitation(日本語で短く表現するのはむずかしく公定訳は「適応のための技能の習得」としているが、これでは「機能を生かし発達させる」側面が見えない)。

条約第9条はアクセシビリティに関する一般規定である。情報アクセシビリティ、および学校・公共交通機関・アパート・小規模店舗への移動のアクセシビリティは、大都市を除いてほとんど確保されていない。社会の側に壁ができないように設計段階から配慮するユニバーサルデザインについて、建築家、設計者、技術者に対する啓発と教育が不足している。審査報告はこれらを指摘し、改善を求めている。

情報アクセシビリティに強く関係する「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会(第21条)」について。ウェブサイト、テレビ、メディアサービス等について「法的拘束力のある基準(legally binding information and communication standards)」を制定する必要がある。点字、盲ろう者への通訳、平易な言語表記、音声解説、字幕付与などの技術開発と利用への資金の割り当て。日本手話を国家レベルの公用語として法律で認めること。

教育(第24条)についても指摘は厳しい。特別支援教育を廃止し、統合教育に移行する計画を作り、提供すること。障害を持つ子供が普通教室での教育を求める際には、拒否することを許されないと保証する「拒否禁止」条項と政策を導入すること。

政治的及び公的活動への参加(第29条)について。障害者の選挙権・被選挙権を保証するように公職選挙法を改正すること。障害のある人が、政府のすべてのレベルで役職に就き、すべての公的機能を果たすことができるようにすること。

このように、法制度は整ってきたが実質は進んでおらず、あらゆる側面で改善が必要という指摘にあふれた審査報告となった。「仏作って魂入れず」の状態にあると国際的にあらわになったのである。建前だけでごまかすことは最早できない。今こそ、障害者政策を抜本的に見直すべきである。