あぁ、介護:私の50代は介護で終わり既に60代になってしまった

先日、ある集まりがあり、久しぶりにお会いした方々と談笑したのですが、ポロポロ出てくる話題が「親の面倒どうする」であります。特に移民一世である我々のような立場の人の多くは親を含む家族は日本という方が多く、何かあれば長期に渡って日本に行かざるを得ない悩みを抱えている方も多いことが改めて浮き彫りになりました。

もちろんこの問題は海外に在住する日本人の方のみならず、国内在住の方で親御さんと離れて暮らす方々にも共通の悩みかと思います。

日経BP社から「母さん、ごめん。2 50代独身男の介護奮闘記」(松浦晋也著)が6月下旬に発売になりました。第1巻にいたく共鳴したこともあり、第2巻も興味深く拝読させていただきました。第2巻はグループホームに入った母親の介護編で今、介護施設を建設中である私として家族側の目線がとても参考になります。

以前、私の母親が「最近の話題は葬式ばかり」と嘆いていたのですが、私に言わせれば「最近の話題は介護ばかり」ということになります。葬式は上げてしまえばそれで終わりですが介護はこの介護奮闘記の「わたしの50代は介護で終わり既に60代になってしまった」という言葉通り、ケースによっては長期戦が避けられないのです。そしてグループホームや特養など施設に預けてしまえばそれで終わり、という訳でもなく、個人差はあるもののそれなりに通わざるを得ず、時間の束縛は当然あります。

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また、高齢になれば怪我や病気は当然ついて回るもので入院になれば施設の方は来てくれませんので家族が付き添うなどの対応をしなくてはいけません。もちろん、費用も掛かります。よく親御さんが「自分の葬式代は自分で確保しているからね」などと言いますが、葬式より介護とそれに関連する費用がはるかに掛かるし、それこそいくらになるかわからない恐怖すらあるのです。こうなると兄弟が多い方が皆で分担できて良いのですが、一人っ子世代が介護を必要とする親を抱える時代になった今、子供への経済的負担は尋常ではないことも多くなるでしょう。

介護に関して日本とカナダは考え方がかなり違います。カナダにも高齢者を敬う思想は当然ありますが、若い世代、更には新しく生まれた子供たちにより高い支援をする仕組みにみえます。例えば当地には介護保険はありませんし、施設の選択肢は政府補助のある施設か民間かは選べますが、それ以外の公的支援はほとんどありません。日本と何が違うのか考えていたのですが、日本は儒教の考え方が残っているのかもしれません。故に高齢者に優しい待遇が健康保険をはじめ、あらゆるところにみられるわけです。これは特筆すべき事項かもしれません。

では平均寿命は、といえば統計によりばらつきがあるのですが、男性は日本とカナダの差は小さく、コンマ差程度です。女性は日本が3年ぐらい長いでしょうか?ちなみに年長者を敬う国として最も知られる韓国も実は結構な長寿国になりつつあり、日本のあとを追っています。面白いものでこれがアメリカだとある統計資料では男女合算ベースで世界で60位台、男性も60位台ですが、女性だと80位台まで下がってしまいます。カラダが大きいことで負荷が大きいこともあるのでしょうか?(カナダにはアメリカ人のような大きな人はかなり少ないと思います。)

ではカナダで介護はどうしているのか、といえば主に2通りで施設か在宅介護です。グループホームのコンセプトはあまりありません。問題は値段が高いのです。ホームケアの業務も側面支援しているので状況は詳細に把握していますが、初めは週に2-3回、1回あたり2-3時間だったものが必ず回数も時間も増えてくるのです。そうなると月あたりの支払額は5万円程度だったものが10万円、20万円規模と膨れ上がります。どうやって払うのかですが、こちらは自助であって子供が関与する度合いは日本に比べてはるかに薄いと思います。

北米では子供が生まれたらさっさと託児所に預け、親は共働き、朝はお父さんが託児所に送り、夕方はお母さんが迎えに来るといった感じです。つまり、親と子供の関係は生まれてすぐに独立するようにしつけられますので高校を卒業すれば子供は巣立ちます。(最近は住宅難からパラサイトも多いのは事実ですが。)それも近くならいいのですが、カナダの反対側の方とか、アメリカや欧州など子供たちは地球儀ベースで自分の道を歩むのです。すると親が一定年齢になっても子供は面倒みてくれない前提ですので費用から普段の生活や施設のことまで全部自分で考えなくてはいけません。

北米では電動車いすの方が街中を闊歩ならぬ「闊走」しているのをよく見かけますが、これも自助の発想で自分で買い物に行かないと生活できません。もちろん、街中の商店やスーパー、レストランを含め、施設はほぼ全て車いすでのアクセスに対応していますし、バスや電車も普通に乗れます。

その上であとは介護や施設の費用捻出ですが、こちらのFPの方が時々対策推奨しているのは50代になって子供が巣立ったらそれまで住んでいた戸建てを売り、コンドミニアムに移りなさい、その時、戸建て売却金額の半分ぐらいの価格の物件を買い、残りは老後資金に残しなさい、と。そしてもしもその人が自宅で自助できなくなったらコンドミニアムも売って施設への費用に充ててもよいという計画になります。

当地はコンドミニアムが妥当価格ならあっという間に売れます。1週間待ってオファーが入らなければ値付けに問題があるというぐらいで、売り出して3日程度で複数の買い付けオファーは入るものです。それこそ、株の売買とまではいわないまでも素早い資産の流動化が可能なのです。

最後もう一言。施設に入居されている方から「家に帰りたい」という声を聞きます。これを積極的に取り入れる工夫が「逆ディサービス」の変形版です。逆ディサービスとはディサービス利用者が日中、買い物やどこかにディサービスの一環として外出をすることを言うのですが、私が展開したい変形版は日中は家に帰り、夜は施設でお泊りというパタンです。

これは新しいオプションとしてはアリなのかなと思います。その場合、バリアフリーではないご自宅の段差などの問題はありますが、日本人にとって「家」というのはメンタル的に重要な意味を持つはずです。介護のアイディアの一つになればと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月11日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。