真の長期投資は短期投資の無期限連続

手形貸し付けは短期融資の一つの形態で、債務者を振出人、自分を受取人とする約束手形を徴求する方法である。この手形は、手形上に債務者の名前しかないので、単名と呼ばれる。単名のころがし、即ち、俗にいうタンコロは、期日が到来するたびに書替を繰り返して、融資を無期限化することであるが、タンコロは経常運転資金のための融資であって、経常運転資金が半永久的に存在し続ける以上、融資も半永久的にすることが理に適うことのである。

123RF

また、融資先の業況の変化に対応するためには、タンコロが便利である。証書貸付にしていたら、期日までの間の業況の変動により、必要な運転資金の額が変動していても、融資額は変動しないし、期日が到来すれば、債務者は、約定に従い、一旦は弁済して、再度借り直さなければならない。それに対して、タンコロでは、書替の時点での業況を判断して、適宜、増額したり減額したりできるので、より債務者の状況に柔軟に対応できるわけである。

タンコロによる運転資金の融資は、債務者の事業が安定継続している限り、返済を前提にしていなくとも、少しも問題ではなくて、逆に理に適うことだが、事業の継続性に疑義が生じたときには、深刻な問題となる。しかし、その場合は、他の融資形態を選択することによって、よりよく対応できるわけでもない。

タンコロについて、否定的な論点があり得るとしたら、書替継続の形骸化であって、無期限性を理由に、証書貸付への変更で対応するのは完全な誤謬である。真の問題は、融資形態ではなくて、銀行等の債権管理能力なのであり、書替時の与信判断の高度化と適切な対応こそが求められるわけである。

投資についても、法人として資産運用を行っている金融機関や年金基金等の機関投資家の場合は、無期限投資を行っているのであって、それを長期投資というのは誤謬である。誤謬であるのは、長期投資の名のもとでは、環境が変化しても、投資方針を変更しないことが是認されるが、短期投資の連続とすれば、環境変化に適宜適切に対応すること求められるからである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行