がんの治癒は優先されるが治癒した後の人生の質も考えるべき

免疫チェックポイント阻害剤治療は不妊につながる?

Nature Cancer誌に「Checkpoint inhibitor immunotherapy diminishes oocyte number and quality in mice」(免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法は、マウスのデータでは卵子の数も質も低下させる)というタイトルの論文が掲載されている。

細胞障害性の抗がん剤では、卵巣へのダメージがよく知られているが、免疫チェックポイント阻害剤に関しては、この点はよく調べられていなかった。

著者たちは、正常なマウスに免疫チェックポイント阻害剤を投与して調べたところ、卵巣での免疫細胞の増加とTNFα発現量の増加を認めた。さらに、卵子が成熟するのを抑えている状況が生じていた。当然ながら、人間でもおなじようなことが起これば、不妊症につながる。

ただし、マウスと人では寿命も大きく違うし、人間は個人差も大きいので、免疫チェックポイント抗体治療を受けた患者さんのデータ収集が極めて重要で、急がれる。

これまでは、進行がん患者を対象に免疫チェックポイント阻害剤が利用されてきたが、このブログでも紹介したように、比較的早い段階でのがんに対しても利用が広がってきている。将来の妊娠の可能性を考えれば、治療前に卵子を保存しておくことも必要だ。

20世紀はがんを治すことに注力してきたが、今や、がんと診断されても、3人に2人の命が救われる時代となってきた。小児がんは救えるようになってきているが、小児がんサバイバーの寿命は一般の寿命と比べればかなり短い。

がんを治癒させることは優先されるが、治癒した後の人生の質を考えることも重要だ。

cyano66/iStock


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年9月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。