英女王への弔辞:仏大統領の完璧・宮内庁と官邸の怠惰

エリザベス女王の死去に当たって、マクロン仏大統領の弔辞が見事だったので、フランス語と英語で提供することと、日本の陛下や首相の弔辞の味気なさが情けないというお話しが本稿のテーマである。

安倍首相の国葬には、フランスからはサルコジ元大統領が出席する。天皇陛下の即位儀礼の際にも、サルコジ大統領だったので、それと同じ扱いである。親日家として知られたシラク元大統領のときに、国会など対応で安倍首相が出席できず、なんと木寺駐仏大使で間に合わせたのだから安倍氏に対する特別な敬意をもった扱いと言える。

※サルコジ元大統領は保守派だが、マクロン大統領を支持して、大統領再選のキーパーソンとなったが、そのきっかけのひとつが即位礼への派遣だった。なお、夫人のカーラ・ブルーニはイタリア貴族出身でモデルとしても高名で、エリザベス女王を訪問したときのお辞儀は完璧と言われた。開始後、50秒あたりだ。

安倍元首相のもとで、日仏だけでなく、日欧の絆がこれほど深まったのは、第1次世界大戦以来のことだ。英仏とのインド太平洋地域での軍事協力体制を実現した。

2019年の7月に予定されていた、安倍首相の訪欧は中国地方の豪雨で中止されたが、この時に予定されていたのが、フランス革命記念日に主賓として出席し、シャンゼリゼのパレードの先頭で自衛隊が旭日旗を掲げて先の大戦の歴史のなかで象徴的な意味を持つシンガポール軍と行進するのを閲兵することだった。

パリをパレードする陸上自衛隊
フランス大使館Twitterより

また、そのあと、ブリュッセルにまわって日欧EPAの締結を行う予定だったが、このときは、安倍不在で河野外相にまかせるのでは物足りないとして、EUの大統領と事務局長が揃って東京へ来てくれた。

2018年には、皇太子時代の今上陛下がフランスから実質上の国賓待遇で迎えられベルサイユ宮殿での晩餐会なども行われた。妃殿下の同行も期待されたのだが、ドタキャンになってフランス人をがっかりさせた。

今回、新型コロナを理由に地方行幸もされていないなかで、女王の葬儀には参列されるようで、フランス派としては、この扱いの差はちょっと残念だし、そういうことの積み重ねが中国に得点を与えるとほのかに危惧する。

エリザベス女王へのマクロン大統領の弔意が見事だと話題になっている。日本語、フランス語、英語で紹介する。語学の勉強にも歴史の勉強にもなる(※フランス語、英語は文末に)。

【日本語】(※自動翻訳を意味が通じないところだけ手直し)

エリザベス2世女王がさきほど亡くなりました。英国は、70年間不変の強さと道徳的権威をもって英国を体現してきた女性の刻印を永遠に残すだろう。フランスは、彼女の国、我々の大陸、そしてその世紀の歴史を刻んだ女性に敬意を表します。

戦時中、他のイギリス人と同じようにロンドンの砲撃に立ち向かった少女は、やがて11歳の絶頂期から父親の戴冠式に厳粛かつ無表情で出席したヨークのエリザベス皇太子妃となった。彼女は、第二次世界大戦中、イギリス軍の整備士であり救急車の運転手でもあったエリザベス・ウィンザー大尉でもある。妻であり、母であった。

その朝、カンタベリー大主教は、彼女の額に、彼女の父があまりにも早く残していった冠、「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国およびその他の王国と准州の女王であり、連邦の元首であり、信仰の擁護者であるエリザベス2世陛下」が誕生しました。または単に、これらの 2 つの単語からなる言葉(la Reine)は十分に刺激的でした:「女王」

それ以来、彼女は自分の王国のためにすべてを捧げるようになった。これほどまでに君主に共感し、その容姿や言葉、服装や仕草を吟味し、過去の遺産と未来への自信の両方を持ち合わせた国民は稀であった。彼女は国民と一体であり、国民、領土、共通の意志を体現していたのです。また、安定性があり、政治の変動や激変を経ても、永遠の香りを持つ永続性を持っていました。

彼女はフランスで特別な地位にあり、フランス人の心の中でも特異な存在であった。フランスを6回も公式訪問し、歴代の大統領に会ってきた彼女ほど、エリゼ宮の階段を何度も上った外国人君主はいない。彼女にとってフランス語は、多くの習慣に残るノルマン人の祖先であるだけでなく、親密で大切な言語でもあったのです。

16の王国の女王はフランスを愛し、フランスは彼女を愛し返した。英国国民と英連邦諸国は、今夜、女王を追悼する。フランス国民も彼女を追悼している。

20世紀の巨人たちとともに歴史の道を歩んできた彼女は、彼らのもとに旅立っていった。フランス共和国とフランス国民は、国王陛下、王室、女王陛下の政府、そしてイギリス国民に、古くからの友情の証と悲しみを捧げます。

※英国王室では1066年にイングランドを征服して即位したノルマンディー公ギヨーム(ウィリアム一世)をもって始祖と位置づけている。それから100年ほどは、英国王は英語を話さず、また、ほとんどの時間をフランスで過ごすことが多かった。エリザベス女王のフランス語は軽いイギリス訛りはあるが非常にチャーミングだ。

それに対して、陛下や岸田首相の弔辞はあたりさわりのない以上のものではないのが残念だった。もちろん、本人たちが書くわけでないから、宮内庁や官邸外務省の怠惰だ。

【英国エリザベス二世女王陛下の崩御に際しての天皇陛下のお気持ち】

エリザベス女王陛下崩御の報に接し、深い悲しみの気持ちと心よりの哀悼の意を表します。

女王陛下は、70年の長きにわたり英国女王として同国並びに英連邦諸国の国民を導き、励まされました。また、世界の平和と安寧を常に願われたその御姿勢は、世界の多くの人々に深い感銘を与えました。女王陛下が残された数多くの御功績と御貢献に心からの敬意と感謝を表明いたします。

我が国との関係においても、女王陛下は両国の関係を常に温かく見守ってくださり、英王室と皇室の関係にも御心を寄せてくださいました。私の英国留学や英国訪問に際しても、様々な機会に温かく接していただき、幾多の御配慮をいただいたことに重ねて深く感謝したいと思います。

また、女王陛下から、私の即位後初めての外国訪問として、私と皇后を英国に御招待いただいたことについて、そのお気持ちに皇后とともに心から感謝しております。

英国並びに英連邦諸国の国民を始め、世界の多くの人々の悲しみは尽きませんが、改めて女王陛下の御冥福を心よりお祈りいたしたいと思います。

【エリザベス二世女王陛下の崩御に関する岸田内閣総理大臣の談話(令和4年9月9日)】

英国エリザベス二世女王陛下の崩御の報に接し、日本国政府及び日本国民を代表して、英国王室、英国政府及び英国民の皆様に対し、心から哀悼の意を表します。

エリザベス二世女王陛下は、1952年の御即位以降、英国王室史上最長となる70年にわたり在位され、世界の平和と繁栄のために極めて大きな役割を果たされてきました。

日英関係は、皇室・王室の伝統的な友好関係に支えられて発展してきましたが、エリザベス二世女王陛下は、昭和50年に自ら御訪日されるなど、特に日英関係の強化に大いに貢献されました。

激動の世界情勢において英国を導いたエリザベス二世女王陛下の崩御は、英国民のみならず国際社会にとっての大きな損失です。英国民の皆様が、この深い悲しみを乗り越えるに当たり、日本は常に英国と共にあります。

※本原稿は、「安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか – 地球儀を俯瞰した世界最高の政治家」および、私のメルマガの記事から。

【フランス語】

La reine Elizabeth II vient de s’éteindre. Une ère élisabéthaine s’achève. Le Royaume-Uni porte à jamais le sceau de celle qui l’incarna durant soixante-dix ans avec une force et une autorité morale inaltérables. La France rend hommage à celle qui aura marqué l’Histoire de son pays, de notre continent et de son siècle.

La petite fille qui eut à affronter, comme tous les Anglais, les bombardements de Londres durant la guerre, fut bientôt aussi la princesse héritière Elizabeth d’York qui, du haut de ses onze ans, assistait grave et impassible au sacre de son père. Elle fut encore le capitaine Elizabeth Windsor, mécanicienne et ambulancière dans l’armée britannique de la Seconde Guerre mondiale. Elle fut épouse et mère.

Puis tous ces visages, tous ces noms se fondirent en un seul titre, en un seul profil de médaille frappé sur les timbres, les pièces et les imaginations du monde entier : en ce matin où l’archevêque de Canterbury déposa sur son front la couronne trop tôt quittée par son père, naissait « Sa Majesté Elizabeth II Reine du Royaume-Uni de Grande-Bretagne et d’Irlande du nord et de ses autres royaumes et territoires, chef du Commonwealth, défenseur de la foi. » Ou bien, et ces deux simples mots avaient un pouvoir d’évocation suffisant, « la Reine ».

Dès lors, elle se donna tout entière à son royaume. Rarement des sujets s’identifièrent autant à un souverain, scrutant ses regards et ses mots, ses tenues et ses gestes, qui portaient tout à la fois l’héritage du passé et la confiance en l’avenir. Elle faisait corps avec sa nation : elle incarnait un peuple, un territoire, une volonté commune. Une stabilité aussi : à travers les fluctuations et les remous de la politique, une permanence au parfum d’éternité.

Elle avait en France un statut spécial et, dans le cœur des Français, une place singulière. Nul autre souverain étranger n’avait gravi le perron de l’Élysée plus souvent qu’elle, qui fit à la France l’honneur de six visites d’État, et rencontra chacun de ses présidents. Le français était pour elle, non seulement une ancestrale rémanence normande conservée en maints usages, mais une langue intime et chère.

La reine aux seize royaumes aimait la France, qui le lui rendait bien. Le peuple britannique, l’ensemble des pays du Commonwealth ce soir pleurent la reine. Le peuple français aussi porte son deuil.

Celle qui côtoya les géants du XXe siècle sur le chemin de l’histoire s’en est allée les rejoindre. La République et le peuple français adressent à Sa Majesté le Roi, à la famille royale, au gouvernement de Sa Majesté et au peuple britannique le témoignage de son amitié séculaire et de sa tristesse.

【英語】

Queen Elizabeth II has just passed away. The United Kingdom will forever bear the seal of she who embodied it for seventy years with unwavering strength and moral authority. France pays tribute to she who marked the History of her country, our continent and her century.

The young girl who, like all her compatriots, faced the bombing of London during the war, would soon also become the heir presumptive, Elizabeth of York, who, at eleven years old, was a serious and impassive onlooker at her father’s coronation. Later, she would become Honorary Junior Commander Elizabeth Windsor, a mechanic and ambulance driver in the British armed forces during the Second World War.

As well as wife and mother. Then all these faces, all these names gave way to a single title, and a single profile printed on stamps, coins and the imagination of the whole world, on the day the Archbishop of Canterbury placed on her head the crown her father had left too soon. “Her Majesty Elizabeth II, of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and of Her other Realms and Territories Queen, Head of the Commonwealth, Defender of the Faith”, was born. Or simply, and these two words were sufficiently evocative: “The Queen”.

From that point, she gave her all to her Kingdom. Rarely have subjects identified themselves so much with their Sovereign, enthralled by their every glance and word, their outfits and gestures, representing both the legacy of the past and confidence in the future. She was one with her nation: she embodied a people, a territory, and a shared will. And stability: above the fluctuations and upheaval of politics, she represented a sense of eternity.

She held a special status in France and a special place in the hearts of the French people. No foreign sovereign has climbed the stairs of the Élysée Palace more often than she, who honoured France with six state visits and met each of its presidents. For her, French was not a mere relic of Norman ancestry that persisted in so many customs, but an intimate, cherished language.

The Queen of sixteen kingdoms loved France, which loved her back. This evening, the people of the United Kingdom and the Commonwealth are mourning their Queen. The people of France join them in their grief.

She who stood with the giants of the twentieth century on the path of history has now left to join them. The French Republic and the people of France extend their long-standing friendship and deep sorrow to His Majesty the King, to the Royal Family, to His Majesty’s Government and to the British people.