急性散在性脳脊髄炎(以後ADEMと略)はコロナワクチン以外のワクチンでも重要視されている重篤な副反応の一つです。重要な副反応であるため、厚労省により対応マニュアルが作成され公開されています。今回は、この副反応について考察してみることにしました。分析の結果、ADEMはコロナワクチンとの因果関係がある可能性が高いという結論に至りました。
この疾患は、15歳以下小児に発症することが多く、日本では15歳以下で年間発症数約60例と非常に珍しい疾患です。ウイルス感染後またはワクチン接種後に発症する場合が多いとされています。症状としては、頭痛、発熱、嘔吐、意識障害、痙攣、四肢麻痺、感覚障害、眼振・眼球運動障害などがあります。成人での発症は小児より更にまれとされていますが、成人の年間発症数は、私が調べた限りでは不明でした。
PMDAによると、ワクチン接種後の日本においてのADEMの報告数は、2018年度で29件(うちインフルエンザワクチン17件)、2019年度で28件(うちインフルエンザワクチン11件)でした。これらの報告には小児例も多く含まれていますので、成人のワクチン接種後の年間発症数は数例~十数例と推測されます。
コロナワクチン接種後のADEMの症例データは、厚労省のWebサイトより取得することができます。報告症例一覧(製造販売業者からの報告および医療機関よりの報告)のデータよりVBAを用いて、症例データを集計し、そのうちの重複例を削除しました。接種1~4週間後に発症する場合が多く、接種後28日以内の症例が報告対象となっています。なお、実際の症例について、CBCの大石氏が、地上波の番組で報道(2022年5月6日、9月2日)しています。
報告された症例数は94例で、平均年齢は45.3歳でした。因果関係ありのα認定(ただしγ認定と混在)は6例、ブライトン分類レベル2の症例が3例ありました。なお、α認定の症例とブライトン分類レベル2の症例は一致していませんでした。
まず、接種後発症者の年齢分布のグラフを見てみます。
過去の発症例は小児が主であるのに対して、コロナワクチン接種後の報告例は10代~90代と、幅広い年齢で発症しています。例年と比べて、明らかに異質な現象が起きていると言えます。
次に、月別の発症者数と平均年齢のグラフを見てみます。
次に、接種日から発症日までの日数のグラフを見てみます。
偶発的な発症の分布ではありません。接種後7日以内に55%が発症しています。報告バイアスの問題がありますが、例年の1日あたりの発症数が0.16人であることを考えると、このバイアスの影響は非常に小さいと考えられます。
最後に、α認定された6症例のデータを提示します。
疾病・障害認定審査会で救済認定された症例は、このリストの症例番号1545の症例です。
以上の分析結果より、因果関係がある可能性が高いと私が考える根拠は次の3つです。
【根拠1】例年の発症例の年齢分布と比べて、接種後の発症例のそれは大きく異なる。
【根拠2】例年の年間発症例数と比べて、接種後の発症例数は非常に多い。
【根拠3】接種から発症までの日数の分布が偶発的な分布ではない。
【問題点】診断の精度については、十分な検証が必要である。
発症数については、思考実験として有意差検定を試みてみました。成人発症例は統計データが存在しないため、年間10例と仮定します。小児発症例が年間60例なので、合わせて70例です。接種後発症例は94例ですが、期間が18か月間、接種率82%なので、補正して年間76例となります。この76例が非偶発的に発症したと仮定すると、ワクチン接種が実施された年の発症数は146例となります。
ワクチンが実施された年の発症数146例、例年の発症数70例、人口1.258億人、で有意差検定を行うと、p値0.00000020であり有意差ありでした。バイアス補正なしの概算ですが、p値が極めて小さく、レセプトデータを用いて検定しても有意差が認められる可能性が高いことを示しています。
なお、過去に発症率や死亡率が極めて低い時には、因果関係があっても有意差が生じない場合があると説明してきましたが、年間発症数が数十例~百数十例という極めてまれな疾患の場合では、その限りではなく、有意差が認められます。
以上の思考実験より、厚労省がレセプトデータを用いたコントロール群と有意差検定を行えば、有意差ありとなる可能性が高いと考えられます。厚労省は有意差検定を行い、ギラン・バレー症候群(以後GBSと略)のように、 コロナワクチン添付文書においてADEMの注意喚起を記載することを速やかに検討するべきと、私は考えます。
なぜ、ADEMではGBSのように注意喚起の記載が検討されないのか?
これは、おそらくADEMの報告の絶対数が少ないためと推測されます。ADEMの報告数が94例に対して、GBSのそれは私の集計では281例です。ただし、前者の年間発症者数が約60~70例に対して、後者のそれは約1400例です。
問題を少し単純化して考えてみます。副反応として、次のような疾患Aと疾患Bを想定してみます。
疾患A:例年の年間発症者数20,000例、接種後発症者数200例
疾患B:例年の年間発症者数50例、接種後発症者数100例
疾患Aの接種後発症者数は疾患Bのそれの2倍ですが、年間発症者数が2万例と非常に多いため、疾患Aの200例は偶発的発症で説明可能な例数です。一方、疾患Bは接種後発症者数は疾患Aのそれの半分で少ないですが、年間発症数が非常に少ないため、接種後発症が偶発的とは考えられません。副反応として、どちらの疾患を重視するかは自明です。
厚労省は、報告数だけでなく、例年の年間発症者数も加味して、添付文書においての注意喚起の記載を検討するべきと、私は考えます。