これまでは、子どもはコロナでは滅多に死なないとされてきた。実際、わが国における昨年末までの20歳未満の死亡例は3人のみである。ところが、9月14日に、国立感染症研究所(感染研)から、今年に入って8月31日までに、20歳未満でも41人の死亡例があったことが発表され、このニュースを大手メデイアが一斉に報道した。
41人の内訳は、0歳:8人(20%)、1〜4歳:10人(24%)、5〜11歳:17人(41%)、12〜19歳:5人(12%)、不明1人(2%)である。
18人(44%)には基礎疾患が認められた。21人(51%)は、7月11日から8月31日の期間に発症しており、この期間の増加が著しい。
41人のうち、32人において聞き取り調査が行われた。そのうち、外傷などで死亡した3人を除く29人についての調査結果が報告されている。死因ではなく、医療機関において疑われた死亡に至る主な経緯と表現されているが、心筋炎や不整脈などの循環器系の異常が7人(24%)、急性脳症などの中枢神経系の異常が7人(24%)、肺炎などの呼吸器系の異常が3人(10%)、多臓器不全などその他の異常が6人(21%)、原因不明が6人(21%)であった。
基礎疾患がある、なしに分けても検討しているが、基礎疾患が見られなかった15人のうち、呼吸器系の異常は一人も見られないのは意外な結果である。ワクチンの接種対象となる5歳以上の15人のうち、2回接種を受けていたのが2人(13%)のみで、13人(87%)は未接種であった。考察では、基礎疾患がない子どもでも死亡例すること、死亡例の多くはワクチン未接種であることを論じている。
この調査が「コロナで死亡の子ども、多くがワクチン未接種」の見出しでYahooニュースに掲載されると大きな反響を呼び、1500件に達するコメントが寄せられた。
「多くの子どもでワクチンを接種していなかったことが分かりました。大人並みに接種していたら、死者はかなり少なくなったと思う。 子供の多くが軽症だからといって、油断をしてはいけない。オミクロンじゃなかった時期にはほぼ0だったことを考えれば、以前とは事態が変わったことを認識すべきでは。」
と感染研の発表を肯定する意見もあるが、99%のコメントは、“ワクチン接種を勧める煽り記事”と手厳しい。
私個人にとって、この調査は、子どものコロナによる死亡がここまで急増したことや0歳児が8人も含まれているなど新しい情報もあってそれなりに有益であったが、データの信憑性に不安を覚えた。
コメントの中には、
対象となった41人のうち29人の調査結果しか記載がないのは信頼性に欠ける
厚労省の9月6日付に発表した20歳未満のコロナ死が26人であることとの整合性
5〜11歳のワクチン接種率が20%であることから、13%の接種率を「多くはワクチン未接種」とするのは言い過ぎ
と、的をついた指摘も見られる。
私も、米国での20歳未満のコロナ死の年齢分布が、0歳:124人(23%)、1〜4歳:88人(17%)、5〜11歳:89人(17%)、12〜19歳:231人(43%)であるのに、今回の発表では12〜19歳が12%しかないことに疑問を持った。
交通事故死でもコロナ陽性ならばコロナ死にしてしまう。純粋にコロナで亡くなった人のデータにしてください。
とコロナ死の定義に疑問を投げかけるコメントも多く見られた。
実際、今回の41人にも外因死が3人含まれている。コロナ死の定義をめぐって異議を唱える意見は強い。今回紹介したコメントの中にも「交通事故死をPCR陽性だからと言ってコロナ死に含めるのはおかしい」という意見が散見する。
愛知県の大村知事も、
愛知県において第7波で亡くなった235人の中でコロナ肺炎単独の原因で死亡した人はいない。他の疾患が主要な死因の場合はコロナ死から除外すべきである
と主張している。私個人としても、コロナと関係ない死亡例までをコロナ死に計上することは、医療者として納得できない。
子どものコロナ死に、国民の関心が高まったのは、5歳から11歳の子どもへのワクチンの接種が努力義務とされたことやこの年齢層への3回目接種が始まったことが影響していると考えられる。さらに、9月2日には、厚労省から各自治体に生後6ヶ月から4歳以下についても接種体制を準備するように事務連絡が送られた。
そこで、感染研の発表を補うべく、8月31日までにメデイアで報道された20歳未満26人のコロナによる死亡例の情報を整理した。個人情報保護の観点から、不明の点が多いが、感染研の報告を補う意味はあると思われる。
2021年末までの報告は3人のみで、23人は今年に入ってからの報告である。感染研の41人の報告より18人少ないが、厚労省から発表された数字と一致する。10歳未満が15人いたが、0歳児であることが確認されているのは1人のみである。基礎疾患ありが14人(54%)、なしが5人(19%)、不明が7人(27%)であった。ワクチンの接種歴が判明している7人のうち2回接種済みは2人(29%)であった。
死因が判明している18人について、
- コロナが直接の死因
- コロナが間接の死因
- コロナとは関連なし
に死因を設定したところ、3. の関連なしが8人(44%)を占めた。4人でコロナ以外と記載されていた他、外因死が2人、血液疾患による死亡が2人含まれている。死因が不明の1人は、死後の検査でコロナが陽性であった症例である。
子どものコロナによる死因をめぐる混乱は米国からも報告されている。コロナで死亡したとされる182人の18歳未満の死亡診断書を検討したところ、64人(35.2%)では、コロナとの関連を示唆する肺炎や呼吸不全などの直接的な死因や高血圧や糖尿病などの基礎疾患の有無が記載されていなかった。
米国では、コロナの死亡統計は疾病予防管理センター(CDC)に属すCovid-19 Data TrackerとNational Center for Health Statics(NCHS)から発表される。Covid-19 Data Trackerは各州の保健局からの報告をリアルタイムに集計し速報に重きを置いており、NCHSの集計は死亡診断書に基づいている。
2022年の3月中旬になると、Covid-19 Data Trackerが発表する18歳未満のコロナ死は1700人であったが一方のNCHSの発表では900人と2つの集計間に大きな乖離が見られるようになった。
この乖離に一人の母親が、
Covid-19 Data Tackerが公表する子どものコロナ死の数字には問題がある。自分達の子どもがコロナの脅威に曝されている今、正確なデータが欲しい
とツイートした。ツイートは大きな反響を呼び、CDCも重い腰をあげてCovid-19 Data Trackerの過失を認め645人に修正した。CDCからは過失の原因は、コンピューターが誤ってコロナが原因の死亡に加えて、死因とは関係ないPCR陽性のケースもコロナ死とカウントしたことによると説明された。一例として頭部外傷で死亡してもPCR検査が陽性ならコロナによる死亡にカウントされたことを挙げている。
今回の、感染研の発表は米国のCovid-19 Data Trackerと同じ問題を抱えている。感染研もそこは認識していて、今回の調査の限界として暫定的な報告であり、今後の調査の進捗に合わせて、情報の更新・修正がなされる可能性があると注意書きを加えている。
問題は、この時期にあえて不完全な調査の発表をしたことにある。それ以上に、問題視すべきは「コロナで死亡の子ども、半数は基礎疾患なし、多くがワクチン未接種」という見出しで、感染研からの発表を大本営発表する大手メデイアの報道であろう。