厚生労働省は9月16日に2022年版の「厚生労働白書」を公表した。副題は「社会保障を支える人材の確保」である。医療・介護関連の人材が2040年には96万人も不足すると推計して、人材確保の重要性を訴えている。団塊の世代が後期高齢者になりつつある今、介護が必要な高齢人口増加への警戒感から人材確保を訴えたわけだ。
菅直人総理大臣(当時)が2010年の第176回国会で、
医療・介護・子育てサービス、そして環境分野。需要のある仕事はまだまだあります。これらの分野をターゲットに雇用を増やす。
と所信表明したことがあった。しかし、これは人口動態を考えればすぐに気づいたはずの、民主党らしい愚かな政策だった。
少子高齢化によって生産年齢人口は減少する一方という様子は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」を見ればわかる。今のところ2017年版が最新で、2020年国際調査に基づく推計も来年には公表されるが、生産年齢人口について楽観的な推計が公表される可能性はない。
減少する生産年齢人口は各産業で取り合いになる。厚生労働白書は、取り合いの中で医療・介護関連職を増やすのではなく、医師や看護師などの間で仕事を移管するタスクシフトと、共有するタスクシェアを行おうとしている。オンライン診療やロボット・センサーの活用事例も紹介している。
オンライン診療やロボット・センサーなどのデジタルヘルス、つまり健康・医療・介護のDXこそ本命の政策である。センサーも含め多くの健康データに基づいて健康増進を図り、介護の必要性を減らす技術は生産年齢人口にも適用できる。介護が必要になってもデジタル技術で合理化できる。
健康・医療・介護分野でのICTの活用について、標準化動向を中心にセミナーが9月28日に開催される。オンライン聴講もできるので参加していただきたい。
少ない生産年齢人口取り合いの影響は農林水産業にも表れる。食料安全保障にも環境保全にも直接関係する農林水産業では、他の産業よりも早く従事者の減少と高齢化が同時進行している。農林水産業を維持していくためにもDXが不可欠である。農業のDXについてICPF(情報通信政策フォーラム)で10月6日にセミナーを開く。こちらも参加してほしい。
生産年齢人口減少の影響は全産業に及ぶ。人材の取り合いには限界があるため、積極的にDXを進める必要がある。