年金基金は永続する法人であって、その資産は、年金制度の継続を前提にする限り、給付原資として払い出されることはなく、その運用の果実のみが給付原資となる。故に、資産運用の目的は、毎年の予定された収益を着実に稼得することに帰着するので、その限りにおいて、短期的である。
また、何らかの事情で制度の継続が不可能になる事態を想定するとして、資産は、その時点で加入員・受給者へ分配されるべきものだから、非常の事態に備える限り、常時、清算時の給付原価を上回っている必要があるという意味で、やはり、短期的課題を負う。
こうして、年金基金の資産運用とは、短期の課題を無期限に達成し続けることであって、決して、長期の課題を実現するための資産運用ではない。制度が継続する限り、終わりがないのだから、そもそも、最初から、有期の概念である長期が適用されるはずもない。人は、年金基金の資産運用について、長期運用というが、正しくは無期限運用というべきである。
いうまでもなく、資産運用において、長期の視点にたつことは、極めて重要なことだから、短期の資産運用の課題といえども、長期の視点においてのみ、適切に解かれ得る。ただし、長期の視点で短期の資産運用の課題を解くことは、長期の資産運用の課題を解くこととは、全く次元が異なる。
年金基金の資産運用は無期限だが、自然人は必ず死ぬので、その資産運用は有期である。そして、その有期が長期であるかどうかは、資金使途に依存する。2年後に長期休暇をとって海外旅行にいくための資金の確保は短期の課題、10年後に家を建てるための頭金作りは中期の課題、働き盛りの人にとっての老後生活資金の形成は長期の課題となる。
運用資金の性格が必ずしも長期ではないとしても、投資に臨む姿勢としては、常に、長期の視点に立たねばならない。そういう意味で長期投資という言葉を用いて、その重要性を強調するのなら間違ったことではない。しかし、そうした技術的な意味での長期投資よりも、投資が本質的に有期の投資であって、資金使途に応じた適切な期間を弁えることのほうが重要なのである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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