皇室の国際的序列・肩書でなく歴史と国力が決め手

エリザベス女王の葬儀を機会に、改めて、日本の天皇陛下は世界の君主のなかでどういう序列なのか話題になりました。特別扱いされなかったので残念がっている向きもあるが、天皇は国王より格上とかいう都市伝説は忘れたうえで、そうはいっても、世界でイギリス王室と並んで尊敬を受ける存在だということについて正しく知ることが大事だと思います。

そのあたりを、神社チャンネルというYouTube番組で、羽賀ヒカルさんと、拙著『日本人のための日中韓興亡史』、『日本人のための英仏独三国志』をたねに対談しました。

これまでお話ししていたことを、東洋史、西洋史の知識に基づいて縦横無尽に語っています。分かりやすくとてもいい動画だと思いますので、ご視聴いただければ幸いです。以下は、要旨です。

英国の王室がヨーロッパでもっとも重んじられているのは二つの理由があります。ひとつは、15か国の君主であることです。バハマが最近になって抜けて、16から減ったのです。ただし、英国王としてではなく、独立した、たとえば、カナダ王としてです。

もうひとつは、歴史の長さです。1066年のノルマン征服から女系も含めてですが、万世一系です。厳密にはデンマークがもう少し長いのですが、あいまいな部分もあります。ちなみに、チャールズ新国王は男系ではドイツのグリュックスブルクという領主に出発し、デンマークやギリシャ王家の分家での流れで、イギリスに帰化するときにマウントバッテンを名乗りました。

王家としてはウィンザー家ですが、王家を出た男系子孫はマウントバッテン・ウィンザーを姓とするという玉虫色です。

今回の葬儀で分かったのは、日本の皇室は外交儀礼上、特別の地位にあるというのは、都市伝説だということです。ただ、これはもともと誤った思い込みで、そもそも確定された序列などないのです。皇室があとでのべるような様々な理由で世界でもっとも尊重される君主家であることは確かですし、それを日本人は誇っていいし、また、値打ちを維持するために不断の努力をすべきだということだと思います。

外交上の儀礼は、基本的には、元首でも大使でも就任順です。ただ、君主が大統領などに優先される場合もあります。とくに、王家の行事ではそうです。また、今回は君主としていた国、英連邦の国、欧州の国とその他などが別々に扱われたようですし、ルーマニアなどの元君主も席を与えられたようですが、いまのところ、すべての列席者の座席表がありませんので、私も完全な原則はわかりません。

ただ、両陛下は、同じ2019年でも少し早く即位したマレーシア国王の次という席次でしたが、外交儀礼上、妥当な順でした。

ただ、このほかの場合にもこの席次かというとそうでもありません。エリザベス女王の60周年のときは、記念撮影のときは、元国王も含めた即位順で9位でしたが、食事のときなどにはいい席を与えられたり、日本の皇室にふさわしい扱いもあったようです。

それでは、君主の序列は何で決まるのでしょうか。日本の天皇はエンペラーだから、格上という人もいますが、それは、なんとなく値打ちがある肩書きだというのは確かですが、自動的に序列が高くはなりません。

たしかに皇帝が格上になるのは、ドイツ帝国内の皇帝と国王では序列があります。しかし、ドイツ皇帝と英国王とではどうかといえば、そうとは限りません。まして、欧州の君主の格はキリスト教の世界での秩序ですから、その外の世界の君主を同じ基準では圧明けません。また、イスラム国のカリフ、スルタン、アミール、シャーなどの扱いをどうするかも問題です。

それから、皇帝の肩書きが日本の天皇だけになる前には、中央アフリカのボカサ皇帝がいました。まさか、日本の天皇と中央アフリカの皇帝が世界の君主で最高位だったともいえません。

一方、東洋の君主のなかでいうと、中国の皇帝とそれに冊封された国王の間では、朝鮮国王のように皇帝による冊封でもってはじめて国王となり、ほかの国の影響も受けないというなら上下関係がありますが、一般的に外交秩序としての冊封体制なるものがあったとはいえません。冊封体制というのは、戦後に、媚中派の東京大学教授が発明した言葉で、日本国外では使われていません。

モンゴルのハーンだって中国の皇帝の格下などと思っていませんでしたし、宋代には中国の皇帝が契丹の王の下位に位置づけられたこともあります。

日本の天皇が中国の冊封を受けたことが古代にあっても、冊封を受けるまでは天皇でなかったわけでもありませんし、中国の使節に対して三跪九叩頭したともききません。

豊臣秀吉が冊封されたというのがどういう事情だったかは、『令和太閤記 寧々の戦国日記』で特別に詳しく書いています(この本のメインテーマの一つです)が、モンゴルのアルタン・カーンにならって、これを梃子に通商と朝鮮支配の口実としようとしたということのようです。

明治になって、新政府は、朝鮮に対して近代的な国交を開く申し出をしたが、朝鮮側は『皇』とか『勅』とかいう文字は皇帝しか使えないと突っ返してきたので、日本は中国に対等の国交を申し出ました。

清国政府は、昔から日本は中国の隣邦という意識だし、元寇や倭寇をみても中国に従ってこなかったのだから朝鮮と同じに扱えないとして、欧米諸国と横ならびときめたので、朝鮮の主張は意味をなさなくなりました。

それでは、日本の皇室の値打ちは何かと云えば、ひとつは歴史の長さと万世一系です。神武建国が2682年前かどうかはともかくとしても、崇神天皇による大和統一が3世紀、仲哀天皇と神功皇后による日本統一が4世紀ですから、それから連続していますし、皇統は万世一系で継続しています。

しかも、統一国家が成立した時点から継続していることで値打ちが増します。イギリスのように1066年のノルマン征服以前にすでにイングランド王国があったのとは違います。

もうひとつは、日本の国力です。世界で第三位の経済大国ですからそれなりの値打ちがあります。

さらに、以前はモラルの高さがありましたが、それはさまざまなトラブル続出で特別な存在でなくなっています(問題は秋篠宮家だけではありません)。

それでは、日本の皇室が今後とも世界で尊敬されるためには、どうすればいいかといえば、第一は、従来の原則での皇位継承をできるだけ続けることです。原則を変えたら継続性は毀損します。

第二は、日本が大国であり国際貢献をすることです。日本が経済力で世界第二位から三位になったことで、皇室の値打ちはその分減りました。皇室の値打ちと日本の地位が関係ないはずありません。

そして、第皇室が何よりも公務において、さらに、私生活においても、高い評価を受けたら評価があがるのも当然だと云うことでしょう。