前編で示したことを要約すると次の通りです。
- RDD電話世論調査には年齢階層の偏りがある
- 報道各社も偏りの存在を認識している
- 偏りを補正する対策として携帯電話を聞き取り対象に加えた
- 携帯電話比率を5~6割程度まで高めた現在でも克服できない偏りがある
本稿(後編)ではまず、NHKの政治意識電話調査について注目します。
年齢層の偏り:「高齢層割増」・「若年層割引」される声
結論から言うと、少なくともNHKの世論調査では年齢層比率を考慮すると、偏りが認められます。世論調査に反映された声は、実際の年齢階層の比率に比べ若年層(:18歳~39歳)の声が約半分しか反映されておらず、逆に高齢層(:70歳以上)の声はおよそ5割増しで反映されている状態です。
NHK政治意識月例電話調査(2022年9月)の年齢階層内訳は表1の通りです。
「無回答」が5.4%存在するので、それを除いた確定比率を合計100%に補正した計算結果が表2です。
20代を例に表2の読み方を説明します。
総務省データによれば、20代の人口は、2021年10月時点で1,264万人であり有権者総数1億745万人に占める割合はおよそ11.77%(A)となります。
一方NHK電話世論調査(2022年9月)回答者に占める20代の比率はおよそ5.07%(B、補正後)にとどまりました。その差はおよそ6.69ポイント(D)になり、現実の比率11.77%に比べておよそ56.88%(E)もディスカウントされている状態です。逆に高齢層(70歳以上)の声はおよそ45.86%(E)も割増状態になっております。
この割引・割増状況をグラフ化すると図3になります。若年層の声は、量的に半分近くまで圧縮され、高齢層は逆に1.5倍近くに増幅されていることが見てとれます。
これらを「100人に換算」した状態を、現実の比率とNHK世論調査における比率との差異を円グラフにして視覚的に捉えたのが図4になります。
40歳未満の若年層(赤桃色)が、現実には27人(※少数点以下四捨五入)おりますが世論調査では14人にとどまり、存在感という観点で13人が消失しています。一方70歳以上の高齢層(青)が、現実には26人いますが世論調査では39人もおり、13人も“盛られた”状態です。若年層の失った分をそっくり高齢者層が受け継いだような比率の変化でした。
「9月だけ特別だった可能性はないか?」と考え、2022年1月からの平均値を調べると表3のようになりました。
実はNHKでは、携帯電話が聞き取り対象のおよそ半数になるようにRDD電話調査を改良していたのですが、近年再び年齢階層の偏り問題が意識されたようです。そこで7月調査から「固定電話:携帯電話」の回答者数比率を「5:5」から「4:6」にあらため、携帯電話比率を高めることで年齢階層の偏りを解消しようとしました。
そのため、上記表3では、1~5月と7~9月で分けて変化を比べました(なお、6月を除外した理由は、選挙前で調査母集団の規模が1.5倍程度まで拡大されていたことに由ります)。
平均値で比較しても結果は殆ど変わりませんでした。
つまり、NHKの世論調査が、「開示された年齢階層通りの結果を集計しており現実の人口分布に合わせた補正がなされていない」と仮定すると、今年のNHK世論調査について、
結論:「世論調査は高齢層約5割増かつ若年層約5割引になっている」
という命題は真(=正しい)です(:仮定した条件が異なれば偽です)。
これが真であるならば、「国葬賛否」についてNHKが発表した「世論」は年齢階層面で無視できない偏りを内在したものであると言えるでしょう。
しかしここで、一つの疑問が浮かびます。
「回答者群の年齢階層に偏りがあるとしても、回答内容に年齢階層的な偏りがなければ結果には偏りが発生しないのではないか?」
そこで次に、年齢階層によって国葬に対する賛成と反対に明確な差があるのかどうかを調べました。
幸運なことにFNNが内訳まで開示していたので、ここからは分析対象をFNNに移します。
FNNが調査した国葬「賛成」・「反対」に関する比率について、その年齢層別内訳を整理したのが次の表4です。18歳~29歳で「賛成60.0%」「反対31.4%」に対し、70歳以上で「賛成28.4%」「反対64.2%」となっており、賛否の構成比率が明瞭に逆転する傾向がみられました。このことは、先の疑問を否定する有力な傍証と言えるでしょう。
また、年代別の「賛成」・「反対」の割合に、①「単純平均」、②「有権者総数人口比率加重平均」、③「NHK回答者構成比率加重平均(推定値)」の3種の値を計算して一覧にしたところ判明したことがあります。重要な副産物でした。
つまり、表4において有権者総数人口比率加重平均の計算値は「賛成40.8%、反対51.1%」となっております。これは、FNNが報じた賛否の比率(下記添付の画像ご参照)に完全に一致していたのです。
このことは、FNNの調査では次の可能性が高いことをしめしています。つまり、
「賛成・反対の情勢について、単純な平均や回答者比率そのままに発表するのではなく、正確な人口データに基づいて比例配分したうえで公表している可能性が極めて高い」
といえます。
逆にそうでない場合、小数点以下第1位まで完全一致することは確率的に考えて困難です。ただし、部外者には「生データ」を検証できませんので、あくまでも推論の範囲を超えません。
「国葬賛否」で露呈した世論調査が克服できていない年齢階層の偏り
また、表4の右列にある「FNNの年齢層別数値にNHK回答者年齢比率を適用して計算した値」「賛成36.7%」・「反対55.5%」を見ると、これはNHKの8月調査結果「評価する36.2%」・「評価しない50.0%」にかなり近い数値となります(ただしこれは計算上の数値に過ぎず、計算経緯を省いて切り取っても評価に耐えません)。
このことは、逆に次の傾向を示唆しております。
「NHKの調査結果には、回答者年齢層の偏りが反映されている」
具体的には、
「反対が圧倒的多数の高齢層の声が5割増しに、賛成が圧倒的多数の若年層の声が5割引きにされている」
悪意ある質問設計の事例
「国葬」に関する世論調査についてテレビ朝日の次のような質問には問題を感じました。
<安倍元総理の国葬>
政府は、安倍元総理の葬儀を、国が全額費用を負担する国葬として9月に行います。あなたは、この国葬に賛成ですか、反対ですか?”(太字は引用者)
この質問には「国が全額費用を負担する」というコスト面を強調するかたちで国葬を形容する枕言葉を付けています。この“装飾”は、回答者に対してプライミング効果を狙ったと推測されます。ここに、否定的な回答に誘導しようとするテレビ朝日の姿勢が滲み出ていると感じます。
質問は続きます。
<国葬に反対の理由>
あなたが、反対する主な理由は何ですか? 次の5つから1つを選んで下さい。
この質問への回答で最多となったのは「国の予算を使って行うから」でした。全体は図6の通りとなりました。
テレビキャンペーンと世論調査が国論の“二分”に貢献
今回、安倍元総理の遭難から国葬儀まで3ヶ月近く間隔が空いたので、月例調査は2回から3回実施することが可能でした。この間、旧統一教会への嫌悪感を高めるテレビキャンペーンによって、高齢層ほど30年前の記憶を刺激され国葬反対に移行して行ったことが推測されます。
そのキャンペーンで染めた高齢層の反対意見が割増しされて「世論調査」となり「正確な国民の声」として喧伝されました。それが次の世論調査に一層過給された形で反映されて行くという「ハウリング効果」によって反対優勢に誘導されたことは否定できないでしょう。
「テレビキャンペーンと世論調査が情報回路を作り、程度は不明確だが世論を一定の方向に誘導した」と指摘することも可能でしょう。
改善策
今回「世論調査の限界」をある程度数値で示すことができました。各々の限界に対し、ただ非難するばかりでなく具体的な3つの改善策を提案します。
【3つの改善策】
一つ目は「各社合同調査」とし、サンプルの母集団を大きくすることです。
メリット:
- 一社あたりの調査コストを低減できる
- 各社の恣意的な質問設定を排除できる
- 年齢層別の内訳についても十分なサンプルサイズで開示できる
二つ目は、「年齢階層ごと(や男女)の偏りを実在の人口比で加重平均して開示する」ことです。
メリット:
- 現実の人口構成比に近い意見が形成される
- 声が届きにくい若年層の声を適正に反映させられる
三つ目は、「調査結果をデータベースとして蓄積・一般公開し続ける」ことです。特に階層別を開示し、それぞれの回答数(:n値、標本サンプル数)も開示することが重要です。
メリット:
-
- 公正性を検証できる
- 検証可能性が不正確な情報開示を抑止する
- 恣意的な報道を抑止する
むすび
マスメディアの伝統的な手法で、いつものように日本の世論は誘導されました。
しかし現状変更国に多数のミサイルを撃ち込まれている私たちは、もはや心地よい言説に身を委ねて迷走している場合ではなく、「誘導されやすい世論」という弱点を認識して克服する努力が大切です。
安倍元総理の遭難は数十年に一度の痛恨事でした。この悲劇からせめて何等かの教訓を抽出して日本のために活用することこそ、今を生きる私たちが安倍元総理に報いるために必要な行動ではないでしょうか。