性犯罪被害者のDNA情報を勝手に使うなという何とも複雑な状況

今日は9月23日以来、久しぶりに家でゆっくりした。ゆっくりしたといっても論文の校正と原稿書きに大半を費やしてしまった。1990年代には元旦だけ休み、364日働き続けたこともできたが、今は2週間で体が悲鳴をあげ、歳をとったと実感する。

ktsimage/iStock

しかし、当時、娘から「お父さんは普通のお父さんとは違う」と泣きながら非難された言葉が今でも耳に残っている。胸に突き刺さった一言だった。今は私生活と仕事のバランスが大事だと言われるが、昭和20年代生まれの私には、夢の世界のことに思える。時と共に価値観が変わるが、刷り込まれた価値観を変えるのは難しい。パワハラ、アカハラ・・・と年寄りにはなんとも生きにくい時代だ。

そして、私の注意を引くニュースが入ってきた。このブログでも紹介したことがあるが、米国のFBIが1980年代に導入した犯罪捜査におけるDNA異同識別には、私が報告したVNTRマーカーが採用され、FBIからのスカウトを受けたことがある。DNAによる異同識別とは、容疑者の衣服に付着していた血液が被害者のDNAと一致するかどうか、あるいは、性犯罪被害者に残された体液DNAが容疑者のものと一致しているかどうかを判別するものである。

性犯罪の場合、複数の犯人がいても特定することができる優れものだ。日本の警察のDNA鑑定導入にも関わったことがある。かつて推理小説にも出てきたMCT118鑑定は、私のVNTR由来だ。詳細は省くが、イギリスの警察では、ミニサテライトマーカーが採用され、米英の基準が異なるという興味深い状況となったのも懐かしい。今では常識のDNA鑑定の黎明期の話だ。

そして、性犯罪捜査には、犯人DNAと区別するために、被害者のDNA解析も必要だ。米国では犯罪者のDNAデータは保存され、データベース化されているが、被害者の情報を記録しておくのは禁止されている。

しかし、米国カリフォルニア州では被害者のものもデータベースに入力されていた。この情報を元に、性犯罪被害者が犯罪を犯したことが特定されたが、勝手にDNA情報を利用した違法な捜査であると争われていた。違法な手段で入手した証拠は採用されないのが通例だ。

結果として、性犯罪被害者のDNA情報はデータベースに保管してはならないという法律がカリフォルニア州で成立した。データベース化されていなければ犯罪を犯していたことは明らかになっていなかったので、何とも複雑な状況だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年10月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。