「パワーカップル」が将来「バカップル」になるリスク

東京都心のタワーマンションの価格上昇について書いたこちらのブログは、ありがたいことにたくさんの方に読まれているようです。

東京の不動産価格は、都心3区に限らず高騰しています。

例えば、江東区豊洲のような人気エリアでは、築10年を超える中古物件でも、既に坪500万円を超えています。70平米程度の標準的な広さの中古物件でも1億円超えです。

このような高額物件を購入しているのは、いわゆる「パワーカップル」と呼ばれる共稼ぎの高収入ファミリーです。明確な定義はありませんが、夫婦ともに年収700万円以上の世帯を指すようです。世帯年収が1500万円程度になります。

図表は厚生労働省の2021年国民生活基礎調査のデータですが、世帯年収1500万円を超える世帯は全体の5%程度と極めて少ないことがわかります。

このような限られた富裕層世帯が、2人で数千万円のローンを借りて、35年の長期で借入して返済していくのです。

タワーマンションの高層階の億ションに住む一見優雅な生活に見えますが、これはかなり大きなリスクだと思います。なぜなら、今の収入や生活レベルが数十年の長期にわたって変化しないとは考えにくいからです。

住宅ローンの返済は、サラリーマンの場合、源泉徴収された手取り収入から行います。年収が今後上がっていけば問題ないのかもしれませんが、返済期間中に会社の経営状態が悪化したり、リストラに遭遇するリスクはゼロではありません。

経済環境の変化は激しさを増していますから、大手上場企業であっても、安泰とは言えないのです。高収入と言われるIT系のエンジニアも技術進歩によって市場価値が急落するかもしれません。

また収入だけではなく、支出も不確実です。病気になったり、転勤になったりと環境変化が起こることもあるでしょう。夫婦仲が悪くなれば、離婚の可能性もあります。また子供が生まれれば、教育費の問題も出てきます。

このような不確定要因だらけの中で、無理をしてギリギリで住宅ローンを組んでしまうと、ちょっとした環境変化だけで生活が成り立たなくなってしまうのです。

パワーカップルという言葉には選ばれた「人生の勝ち組」のような甘い響きがあります。

しかし、環境変化で経済的に破綻してしまえば一転して「バカップル」になってしまうリスクと隣り合わせなのです(バカップルの本来の意味は少し違いますが、、、)。

高額のマイホームの購入は、くれぐれも余裕を持って慎重に行うべきだと思います。

kyonntra/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2022年10月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。