自衛隊における士の若年定年制の課題 --- 松橋 倫久

ロシア・ウクライナの問題もあって、自衛隊へ志願する人が減っているのではないかと心配します。国防はもとより、災害の際の出動ももはや復興に不可欠であり、その使命は崇高なものと理解しています。

私自身、学生時代に自衛官の採用試験を受けたこともあり、地連(現在の地域事務所)の方には本当にお世話になったので、この原稿は自衛隊を批判するために書いているわけではありません。ただ、士(二士、一士、士長)の若年定年制が、隊員の方々にとってなかなか厳しい制度だと感じ、このことについて少し考えてみたいと思っただけです。

防衛省・統合幕僚監部HPより

詳細はわかりませんが、日本だけではなく、士(兵)の若年定年制はおそらくほとんどどこの国でも採用されていると思います。それは、最前線で重量のある武器を担いで走り回るのは、若い人でないとできないからです。そういう意味で、士に若年定年制が採用されるのは、合理的な理由があります。

他方、若年で職を退くということは、生活の糧を得るために再就職しなければならないことを意味します。現状でも地域事務所で退職自衛官の再就職を援護しています。内情についてはわからないけれど、僕が県庁に勤めていたときも、僕の職場にも何度か地域事務所の方が退職自衛官の雇用の開拓に来られたことがあって、精力的にやられているなと感じました。

ただ、再就職の援護があったとしても、例えば自衛官志望者の親の気持ちになってみたときに、はたして何のためらいもなく送り出せるかというと、微妙だと思います。終身雇用制が崩れてきつつあるとは言っても、士の多くは20代で退職されているようですので、二職目に良い就職先が見つかれば良いけれど、特に今の経済状況では転職活動は苦労すると思います。

自衛官を志望するような志の高い人は、待遇面をそれほど気にかけないかもしれません。ですが、待遇面を重視する僕からお節介かもしれませんが、士の待遇改善について少し書かせてください。

私が思うのは、兵役に就いた年数に応じて、早期の年金を支給したら良いのではないかということです。兵役に就いた期間が短ければ、少なくなりますが、生活の足しにはなります。再就職の活動も、順風満帆に行く人ばかりではありません。大変な職務を遂行するのですから、他者から見てうらやましいというくらいの待遇であっても良いはずです。

米国の制度では、兵役に20年以上就いた人にしか軍人年金は下りませんが、日本の士が多くが20代で除隊してしまうことを考慮すると、補足率を大きくするために兵役に就く年数は短くても適応させていくべきでしょう。20代の社会人として一番良い時期を、自衛隊に捧げた人たちに対して、相応の恩恵が与えられるべきです。

資料60 米国・英国・仏国軍人の退職後の処遇及び再就職管理に関する調査報告(11.2.25)

また、同資料では米国では教員、警察官への再就職については、特に力を入れており、便宜を図っているとあります。日本においても、自衛官出身の教員や警察官がいても良いのではないでしょうか。教員の場合は教員免許の問題があるので、そこも在職中から支援が必要になると思います。国防に命をかけた若者の再就職先として、公的分野が便宜を図るのはきわめて妥当ではないでしょうか。

自衛官志望者本人は、若いのであまり将来を悲観的に捉えることはないのでしょうが、送り出す親御さんがためらいなく送り出せるように待遇を整備することも大切と思います。特に今はロシアとウクライナの問題もあり、ロシアとは国境を接してもいるわけですから、何かあったときに士が足りない、ということはあってはなりません。

自衛官志望者が、お金のために志望しているわけではないことは重々承知しておりますが、紛争や災害で身を粉にして働いた士の方々が、除隊後とはいえ困るようなことがあってはならないと思います。

防衛省統合幕僚監部HPより

松橋 倫久
1978年青森県生まれ。東北大学経済学部を経て、青森県庁奉職。在職中、弘前大学大学院を修了。統合失調症の悪化により、2016年青森県庁辞職。現在は療養しながら、文芸の活動をしている。