玉川徹氏とマッカーシズム

ジョセフ・R・マッカーシー(Joseph R. McCarthy)上院議員は、20世紀の米国が生んだ最大の【デマゴーグ demagogue】と呼ばれています。1950年代前半、全米は「米国が共産主義に支配される」というマッカーシーの扇動に操作されて、共産主義者をヒステリックに【魔女狩り witch-hunt】しました。これは【マッカーシズム McCarthyism】と呼ばれる【赤狩り red scare】であり、マッカーシーのデマを信じた大衆の【私刑 lynching】により、多くの罪のない人々が社会的地位を失ったのです。

当時の状況として、R.H.ロービア著・宮地健次郎訳『マッカーシズム SENATOR JOE McCARTHY by Richard H. Rovere』(岩波文庫)の核心部分をいくつか参照します。

ジョセフ・R・マッカーシーは多くの点でアメリカが生んだもっとも天分豊かなデマゴーグだった。われわれの間をこれ程大胆な扇動家が動き回ったことはかつてなかった。またアメリカ人の心の深部に彼くらい的確、敏速に入り込む道を心得ている政治家はなかった。

1950年2月9日、マッカーシーは演説の中で国務省には共産主義者がうようよしており、自分も国務長官もその名前を知っていると言った。

マッカーシー「国務省内の人間で共産党員およびスパイ網の一味と指名された人間全部の使命を挙げるだけの時間はないが、私はここに205人の名簿を持っている」

彼はホラを吹いたのだ。国務省に共産主義者がいるとしても、彼はそれが誰かということは知らない。もし名簿を持っていたとしたら、いったいどこで入手したのか。誰が彼に与えたのか。そしてなぜ?

だが、それは存在しなかった。

205人の共産主義者の名前をつかんでいると演説するのを聞いた婦人たちは、この事実をつかむためにさぞかし骨を折ったことであろうと感じたに違いない。

マッカーシーは?つきのチャンピオンだった。彼は思うままに嘘をついた。恐れることなく嘘をついた。白々しい嘘をつき、真実に面と向かって嘘をついた。しばしば、真実を述べるフリすらしないで嘘をついた。

彼は人々の恐怖や不安をよく知っており、それらを巧みに手玉に取った。

彼は真実や正義を、自分の目的に役立つときにのみ認める。それが自分の目的に役立たないときには、無視してしまう。あるいは巧妙に歪めて正当ならざる理由を正当なものに見えるようにしてしまう。

彼が米国に及ぼした最大の害悪の一つは、息の詰まりそうな「画一性」を社会に押し付けようとしたことであった。それは、意義そのものをけしからぬこととして、説明や弁明を要求するような雰囲気をつくり出した。

彼は気の向くままに行政・司法の権限を奪い取った。

このマッカーシズムと同じような時代錯誤の大衆操作が70年後の現代日本で起きています。テレビ朝日『モーニングショー』のコメンテーターである玉川徹氏が、【政治的意図 political campaign strategies】を隠して国民を操作する番組を制作してきたことを意味する内容を堂々とテレビで宣言したのです。

そして、政治的意図が隠されている放送内容として具体的に考えられるのは、ワイドショーが来る日も来る日も流し続けている「政府が悪意をを持って不正を行い、権力で証拠を隠している」というシナリオの【陰謀論 conspiracy theory】です。玉川氏は、政治的意図を隠した【ルサンチマン ressentiment】たっぷりの陰謀論で国民を【思想改造 mind control】し、日本政府に対する画一的な憎しみを日本社会に押し付けようとしたのです。

ここで忘れてはならないのは、玉川氏は公共の電波を自由に扱うことができる権力をもつ私人です。この私人の権力を縛るのが放送法ですが、玉川徹氏は放送法を嘲笑うようにデマを繰り返し、蔑ろにしてきたのです。このことは、私人である玉川氏が不当に公的権力を悪用して主権者が付託した公人を貶めるという民主主義の破壊行為を行っていたことに他なりません。

玉川氏は、【ゼロリスク・バイアス zero-risk bias】を持つ日本国民の恐怖や不安をよく知っていて、それを巧みに手玉に取りました。玉川氏が頻繁に用いる説得術として「単に可能性があること」を「とても可能性が高いこと」と混同させる【可能性に訴える論証 appeal to probability】があり、これを用いて証拠もなくスケープゴートを罵倒してきました。

その詳細や事例については『月刊Hanada』2022年12月号に寄稿しましたが、「政府が国葬を政治利用する可能性がある」という単なる一般的命題を、「政府が国葬を政治利用する可能性が高い」どころか、いつのまにか「政府が国葬を政治利用した」という事実にすり替え、それを根拠に政府を人格攻撃した今回のケースもこのパターンに当たります。

可能性に訴える論証をベースにした玉川氏の陰謀論は数々ありますが、最も国民にダメージ与えたのはコロナ報道です。コロナ禍において、玉川氏は日本国民のゼロリスク思考を手玉に取り、国民に「家にいろ」と命令し、自粛を強要しました。玉川氏にゼロコロナの信奉者に思想改造された日本国民は、経済を完全に破壊する規模の厳格なゼロコロナ対策を政府に命じ、国民の血税を原資とする莫大な国費を湯水のように浪費させたのです。

マーガレット・T・シンガー著『カルト Cults in Our Midst』(飛鳥新社刊)によれば、【カルト cult】の思想改造プログラムには次の6条件が特徴として存在します。

カルトの思想改造プログラムの6条件(マーガレット・T・シンガー)
・カルトは、思想改造を気付かせないように信者を思想改造する
・カルトは、信者が得られる情報をコントロールする
・カルトは、信者に不安と依存心を喚起する
・カルトは、不都合な過去をリセットして信者から隠す
・カルトは、好都合な情報のみ信者に吹込む
・カルトは、論理の閉鎖回路に信者を閉じ込めまる

この6条件における「カルト」を「ワイドショー」に「信者」を「視聴者」に置き換えても全く違和感はありません。日本のワイドショーはカルトと遜色ない説得術を行っているのです。

なお、現在、ワイドショーは、旧統一教会と接点があったことを根拠に自民党議員を魔女狩りしています。鈴木エイト氏によれば、統一教会は自民党議員をマインド・コントロールし、国家を支配しようとしているそうです。もういい加減、ワイドショーという国家の存亡に関わるカルトから日本国民は卒業するのが身のためです。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2022年10月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。