小児mRNAワクチン接種:努力義務を課す根拠は(後編) --- 家田 堯

doble-d/iStock

前編では国内の状況について述べてきた。後編では、補足的にはなるが海外の状況を紹介しよう。

(前回:小児mRNAワクチン接種:努力義務を課す根拠は(前編)

中・南欧の状況(2022年1月前後)

以下は、2021年12月の同時期に5~11歳の接種を開始したスペイン、イタリア、フランス、ポルトガルにおける全年齢層の陽性者数の推移と小児接種率の図である(図8)。

図8 各国における陽性者数(100万人当たり)の推移と小児の接種率
(Our World in Data、France24 (2022/01/21)に基づく)

これらの国には、当該時期における3回目接種率に大差がない点や、地理的・気候的・民族的共通点など、多くの共通点がある。一方、フランスとポルトガルの例に見られるように、5~11歳の接種率には顕著な差がある。

一部の国・地域の方針によれば、小児接種を通じた教育機関内や家庭内における感染低減、つまり一人の子どもから複数人への伝染の抑制が期待されている。図8からは、そのような期待が妥当であるかについて疑問も生じる。ただし、5~11歳が人口に占める割合は小さいため、その効果は上記のようなグラフには現れにくいとも考えられる。そこで、属性が合致する地域における10歳未満の陽性者数の推移を比較検討した(図9)。

図9 スペイン・カタルーニャ州とフランス全土の10歳未満における10万人当たりの陽性者数の推移及び5~11歳の接種率
(El Pais (2022/01/24)、Santé publique Franceのデータに基づく)

接種率と陽性(感染)者数とが相関している場合、ワクチンは1月12日頃までは感染を抑制し、それ以降は感染を後押ししていることになる。つまり、接種率と陽性者数との間に一義的な相関はないと言える。

クリスマス休暇が終わり学校が始まったのは、フランスでは1月3日頃、カタルーニャでは1月9日頃である。実際、カタルーニャでは1月9日以降、陽性者が急増しているが、増加の勾配がフランスよりも急であることの理由や5~11歳の殆どが未接種であるフランスよりも陽性者数が増えることの理由は、少なくとも筆者にとって定かでない。

なお、フランスとスペイン(その中でもカタルーニャ州)を比較対象として選んだのは、下記各点について高い共通性が見られたからである。

・5~11歳の接種開始日(スペイン:2021年12月15日、フランス:2021年12月22日)

・地理、気候、民族的属性(例:平均寿命、平均健康寿命)

・人口的属性(例:人口ピラミッド、人口密度)

・感染対策

・医療水準

・検査率

・接種率

・流行株

・コロナ死亡率(COVID-19に対する脆弱性の一指標となり得る)

5~11歳用ワクチンの感染予防効果についてリアルワールドのデータが乏しいなか、本論考で紹介した情報が参考となり議論が活発化することを願う。

筆者は、一部の国における「推奨(recommendation)」よりも干渉度・義務度が高い、日本特有の概念である「努力義務」を我が国の幼い子ども達に課す法的根拠や医学的妥当性については、更なる調査・研究が必要と考える。

なお、国内外の双方において小児用ワクチンの効果を高精度で評価するための質の高いデータが十分でない(十分に公開されていない)点、ひいては、それにより本論考で示したデータが非包括的であり得る点には、留意されたい。

参照:小児mRNAワクチン接種:努力義務を課す根拠は(前編)

家田 堯
一般社団法人発明推進協会(東京都港区)、知的財産研究センター翻訳チーム課長。翻訳家。英語、イタリア語、ハンガリー語、ロシア語の翻訳実績がある。学生時代の専攻は音楽。mRNAワクチンに関し様々な観点から情報を紹介するウェブサイト、Think Vaccineを運営。