習近平ワンマン体制の中国:人事で見るべきポイント

みなさま、おはようございます。実は、昨日からAPPF(アジア太平洋議員フォーラム)出席のためバンコクに来ています。出発前日の夜にプライムニュースで3期目の習近平政権についてお話をさせて頂きましたが、言い足りないことも多々あるのでブログに書いてみることにしました。時間が余りないのと資料が手元にないので、ざっくりしたものになるかもしれませんがご容赦下さい。

まず、改めて、今般の中国共産党大会で中国が新たな習近平独裁時代に入ることを我々は強く認識するべきだと思います。もっとスマートでしょうが、時間がたてば(習近平氏が歳を取れば)、本質は毛沢東時代と似たような状況になる可能性もあります。

10月24日に閉幕した中国共産党大会で、習近平三期(以降も多分)続投と新指導部体制が判明。16日の党報告(習近平演説)も合わせると、これからの中国は、事実上、習近平の独裁体制になります。そして、その習近平総書記は、中国式での「中国の夢」の実現に向け、科学技術面での(対米)優位性の実現、14億の人口を頼んでの中国自立経済(その際、経済合理性よりも安全重視)、台湾統一を自分がリーダーである間に実現しようと考えています。

習近平国家主席
中国共产党新闻网より(編集部)

1.人事で見るべきポイント

① イエスマンしかいなくなった

政治局常務委員(チャイナ7)には、もともと習近平に近い人物を引き上げることは予想していたが、ここまで見事に全員自分の子飼いか縁のある人物で揃えたのははやり驚きました。既に、前回2017年の時点で習近平の圧倒的な権力はあったもののまだしも、李克強首相など意見を述べることができる人物はいました。李克強氏のみならず胡春華氏、王岐山といった有能なライバルもみな放擲。政治家のみならず行政府の重要ポストも自分に煙たい人物は排除したとの情報もあります。

つまり、これからは、周辺にも党内、政府内有力ポストにもイエスマンしか周りにいない状況になるわけで、外交について、安全保障についても、経済についても、司法その他の分野でも、習近平氏の考えが全てとなります。

そして、プーチンに見るがごとく、正しいが耳の痛い情報や分析などは届かなくなる可能性が高く、習近平氏が正しい合理的判断をする可能性は低くなるでしょう。当初はそうでなくとも、独裁者は、時間がたち、歳をとるにつれ、「自分が見たい現実を見る」という悪弊に陥るものです。

② 後継者がみあたらない

3期目(5年)どころか、4期目もその先も指導者でいる気満々。年齢的に2期で国家主席・総書記はやめたとしても、其の後も違うポストで影響力行使を狙う可能性もあります。

③ 専門家重視

政治局委員(24人)の中には、外交の王毅氏などのみならず、多くの科学技術の専門家が入っています。宇宙の専門家や核の専門家や医療の専門家など。ざっくり言って、習近平の子飼い的人物と専門家で大半占める指導部陣容です。

2.今後の国家運営の方針

① 科学技術分野での優位性確保

今回、他の経済とは別に科学技術について項目建てをし、天才たちの投入と多額の投資により科学技術における中国の世界的優位を獲得すること目指す旨発表しています。米中対立を強く意識し、デカップリングに備え科学技術力の優位性確保に力を入れていくでしょう。中国の恐ろしいところは、それは不可能ではないかもしれないところです。

② 経済合理性よりも国家安全保障重視の可能性大

まあ、これは、経済安保が我が国でも重視されるようになったとおり、世界全体の傾向でもあるのですが、もっと強烈なものとなる可能性あり。市場もそのように受け止めたから、中国の人民元や株式市場が人事発表で暴落したんでしょうね。毛沢東ほどひどいことにならないかもしれませんが、今後の中国経済が合理的に運営されていくかどうか不安が残ります。

③ 監視社会の徹底

3.台湾統一 ~軍事侵攻の可能性は高まったのか、その時期は早くなったのか~

台湾統一は、今回の報告書でもはっきりと「実現しなければならないし、実現できる」旨書いており、習近平国家主席にとって、台湾統一は、「やるかやらないか」ではなく、「いつ」「どのようなやり方で」実現するかという問題。そして、自分が権力者である間に実現しようと考えています。

なので、3期目の5年内の可能性は当然考えてなければならないものの、そう単純でもありません。あと10年はほぼ間違いなく、もしかしたら終身権力者の座にいることも予想できるわけですから。

そして、「平和統一を目指すが、必要なら武力行使もありうる」とも明言。もっとも、2019年の「台湾同胞に告ぐ」談話や中国国防白書においても「武力行使はありうる」と発表済であり、武力行使オプションがあること自体は新しい方針の表明ではありません。

但し、中国は、昨今のペロシ下院議長訪台のように、米国が台湾に対するテコ入れを強めていることに対する非情なる危機感をもっており、その「外部勢力」に対抗するために、より詳しくはっきりした表現を用いて断固たる対抗姿勢を示したことは明らかです。

そして、中央軍事委員会に、台湾を管轄していた何衡東を入れたことに表れているように、台湾を軍事侵攻できる軍事力と体制を急速に整えていく意図も明らかです。

それでは、台湾統一の時期は早まったのかどうか、というところが当然気になります。自分もこの件については、いろいろな人と意見交換させて頂いたり調べたりして考えてみました。結論から言うと、よくわかりません。結局、習近平次第なのです。

習近平氏がどのような判断をするか、それに尽きる。習近平氏はチャンスだと思えばすぐにもいくでしょうし、そうではなく時間は中国を利していると思えば、10年だって待てるでしょう。彼自身はずっと権力の座にいる可能性濃厚なわけだから。それでは、どういう条件が整えば台湾に対する軍事侵攻をしようと思うのか。

私は、中国の台湾攻略の基本戦略は変わっていないと思うのです。「戦わずして勝つ」のが最善であり、戦う場合もできるだけ血を流さないで、米国(や日本)が手出しをすることができないような状況の中でごく短期で決するような軍のオペレーションを考えている。

シナリオは五万とあるのだろうが、有事に台湾と米国他が展開できえる能力の3倍の軍事力をビルドアップし、圧倒的に軍事的に有利な状況を作り出し、台湾側に戦う意欲を喪失させる、「認知戦」を展開し、フェイクニュースから議員工作、インフルエンサーへの影響工作、世論誘導などありとあらゆる手段で、台湾の人々に戦う気を失くさせる、中国統一に前向きにさせる工作を続け、ある日、統一支持派が台湾の政権を取るといったこと。軍事的な行動としても、台湾海峡封鎖や小島の奪取やグレーゾーンからのエスカレーションなど様々検討しているはず。

他方で、中国の喫緊の課題は台湾統一ではなく、経済であり科学技術であり軍事力強化だと思います。今回の報告では米国からの挑戦をいかにはねのけてかについての危機意識が濃厚です。

ロシアによるウクライナ侵略が進行している中で、まるでロシアと「同類」となり、欧米から一斉に非難を浴びて経済制裁を受ける事態になることを選ぶ必要があるのか。。。。合理的に考えれば、それほどすぐに台湾を無理に軍事侵攻することは考えにくいと思うのです。

結局、以下のようなファクターについて、習近平国家主席自身がどのように受け止め判断するかにかかっており、それゆえ、私は、米中首脳会談、日中首脳会談など、直接リーダーレベルで意思疎通する必要性が高まったと感じています。

習近平国家主席の意思を変えさせることはできなくとも、お互いの「誤解」「疑心暗鬼」に基づく不要な危険な判断をすることはお互い避けることができると思うからです。

時間が中国を利していると考えるかどうか

① 台湾の人民が大陸との統一に前向きになっていくか、または、離れていくか

現状、一直線に離れていっています。習近平独裁統治が魅力的でなければ、益々離れていくことでしょう。一方で、経済的に発展し科学技術力も上がっていく中国を実現できるなら、将来は予断すべきではないとも思います。

② 軍事力増強において時間がたつことが有利かどうか

中国の軍拡のペースの方が早い場合は時間をかけた方が有利ですし、米、日の準備が整う時間が与えたくないとい思えば早い方が有利。この点については、米国が政権交代のある民主主義国であることをどう考えるかというファクターも関係します。

私が習近平国家主席なら、次の米国大統領が見えるところまで待つと思います。まだ、現時点で、中国は台湾の軍事侵攻を成功させるだけの十分な準備はできていないと思われますし。

同時に、上記考えれば明らかなとおり、中国(習近平)の意図がどこにあれ、台湾自身が防衛力を強化すること、日本が防衛力を強化すること、日米豪、日米フィリピン、AUKUS、日中韓、英国の安保連携を深め、中国が「侵攻したくてもできない」状況を作る努力をすることは待ったなしです。

プーチンのウクライナ侵略から学ぶべき教訓

① 独裁者は必ずしも、我々が合理的、と思う判断をするわけではない

② 言葉ではなく、行動を信じて準備するべき

ウクライナ侵攻前のロシアの軍事的行動を見れば、キエフ侵攻まで念頭においた準備をしていたことは明らか。直前まで専門家含め侵攻はないと思っていたのは、NATO加盟阻止の目的のためにそんな非合理的なことをするはずがないという我々の思い込み。

⇒したがって、中国が台湾侵攻ができる軍事的準備を着々と備えていく場合、少なくとも防衛政策においては、軍事侵攻は起こりうるという前提で対処を考える必要があります。

軍事は最悪の事態に備え、外交は最善の状況を作り出すことを目指して取り組む必要があります。

日本自身の防衛力を早急に抜本的に強化し、同盟国及び台湾海峡の平和を希求するできるだけ多くの国との安全保障連携を強化し、同時に、中国との直接の意思疎通をし、交流も深めるべきです。結局、日本にとって中国は永遠の隣国であり、中国にとっても日本は永遠の隣国です。建設的で安定的な関係を作る努力はするべきなのです。

その上で、台湾有事の発生を抑止することは日本の国益にとって死活的です。島国の日本にとって、西からの全ての船は、台湾海峡かバシー海峡を通って到達しています。台湾を中国に支配されることは日本の生殺与奪の権を中国に大半渡すようなものです。米国にとっても、太平洋の半分を中国に支配させるかどうかがかかっています。

そして、仮にも局地的であっても、米中、日中の間に戦火を交えるようなことがあれば、日本は一衣帯水の隣国を敵にすることになります。それは、地図を見るまでもなく日本にとっては、安全保障上も経済的にも極めて困難な運命をもたらすことになると懸念します。

習近平ワンマン体制下の中国とこれからどのように向き合っていくか、日本の外交にとっても防衛にとっても正念場です。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2022年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。