フォルクスワーゲン、スペインのバッテリー工場建設プラン撤退か?

バッテリー生産工場建設予定の都市サグントとは

今年3月、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)はスペインのバレンシア市から15キロ離れた都市サグントに電気自動車用のバッテリーセルの工場を建設することを発表した。

サグント(Sagunto)は歴史的にはローマ帝国時代の同盟都市で、カルタゴのハンニバルがローマに向かう通過点としてこの地で8か月にわたりローマ同盟軍との戦いを繰り広げた場所である。それは紀元前214年のことであった。現在も当時の城壁や円形劇場が残っている。

またこの地は1940年代から製鉄業が盛んで、それが閉鎖される1984年まで発展した都市である。閉鎖された時点で3300人の従業員を抱えていた。

VWはサグントに工場を建設するプランは、正にこの工場の跡地の一角を利用するというものである。また、VWはバルセロナとパンプロナで電気自動車を生産するプランと関連させてサグントにバッテリーを生産することにしたものである。

VWの傘下にある自動車メーカー・セアットがバルセロナに所在しており、なぜその地でバッテリー工場を建設することに決めなかったのかという疑問がある。その背後にはカタルーニャが独立問題を抱えておりカタルーニャから多くの企業が他州に本社を移転させたという背景が影響しているように思われる。

そこで、地理的にバルセロナとパンプロナにバッテリーを供給する為に距離的に問題のない、しかも産業の発展した場所ということでバレンシア州を選択したものと思われる。

スペイン産業省の支援金が少ないとしてプランから撤退する意向を表明

当初、スペイン政府はVWに対し15億ユーロの支援金を約束した。それはEUからの復興基金を利用するものだ。EV開発並びに生産投資に関係した「復興と変革の戦略プロジェクト(PERTE)」の中からこの15億ユーロを支援金に充てるというものが、当初の政府の意向であった。

VWはバルセロナとパンプロナのVWの傘下企業で電気自動車を生産し、それに協力する企業60社余りを含めスペイン政府が支援するものと期待していた。そこでVWはPERTEの支援枠を30億ユーロまで提供されることを期待していた。その具体案を10月3日までにスペイン産業省が明らかにするとしていた。

ところが、実際にPERTEが支援金としてVWに伝えたのは僅か3億9000万ユーロ。VWは少なくとも8億ユーロの支援金が当初から提供されるものと期待していた。VWはスペイン産業省に圧力を掛けて行ったが、同省からの反応はなし。

そこでVWは堪忍袋の緒が切れたとして、10月後半にメディアなどを介して産業省からの支援が増額されないのであればサグントでのバッテリー工場の建設プランから撤退する意向のあることを表明。3000人の雇用と間接的に1万2000人の雇用につながるプランを撤回されるとバレンシア州政府にとっても深刻な問題に発展する。ということで、バレンシア州政府もスペイン中央政府に圧力を掛けた。

その結果が実って10月21日、スペイン産業省は8億8000万ユーロに支援金を増額するとした。また来年度にはさらにその支援金を増額することを約束した。(10月21日付「エル・コンフィデンシアル」から引用)。

今回の産業省からの支援金の増額に対してVWはまだ明確な姿勢を表明していない。というのも、当初VWが期待していた8億ユーロの支援金に沿う形になったことから満足はしているが、果たして約束通りスペイン産業省がその金額を確実に提供されるののか疑問があるからであるからである。