レトロウイルス遺伝子をゲノムに取り込んで利用している?

中村 祐輔

右目の眼瞼下垂症の手術を受けた影響で、しばらく行動制限がかかっていた。眼瞼下垂手術と聞くと難しいが、わかりやすく言うと美容整形の二重まぶたのような手術だ。原因となる、たるんだまぶたの筋肉を引っ張り上げて右目がパッチリとなった・・・・と思う。

しかし、歳のせいか、腫れがなかなか引かず、想定以上に苦労した。右のまぶたが下がり、左右の視野が異なるので、首をひねって見ていたためか、左の首から肩にかけて強い痛みとしびれが出ていたが、腫れが引くと共に、首の痛みがかなり軽減した。そして、ようやく、論文などに目を通す気力が復活してきた。

1週間ほどサングラスをかけて通勤していたが、チンピラやくざと誤解されて?、周りには少し空間ができて役立った?ように思う。上まぶたの出血が下まぶたに貯まるため、手術に関係のない下側が青くなり、「転んだのですか?」「DVですか?(誰からや?)」などと質問を受けた。

まぶたが下がり、左右の視野の広さが違うと辛いと説明しても、老化だから仕方がないとの反応の方が多かった。しかし、老化に伴って生ずる症状でも、可能なら少しでも改善する方が、生活の質が良くなると実感した。

レトロウイルス感染症から守るために、レトロウイルス遺伝子をゲノムに取り込んで利用している?

余談が長くなったが、本題は、Science誌に報告されていた「Evolution and antiviral activity of a human protein of retroviral origin」というのタイトルの論文だ。哺乳類のゲノムには多くのレトロウイルスに類似したDNA配列が存在する。

そして、これらがかつてれとるウイルスに感染した証であり、一部のレトロウイスる類似領域からは、mRNAが作られ、それによってウイルスの外側にあるタンパク質が合成され、結果としてそれらがウイルスの侵入を防いでる可能性を示したのだ。

ヒトのゲノムに存在するレトロウイルス類似配列がゲノムの進化に関連する可能性は示唆されていた。レトロウイルスといっても聞きなれないので、まず、レトロウイルスについて説明したい。

細かいと難しくなるので、少し不正確な表現で大雑把な話をする。レトロウイルスの代表例はエイズの原因となるHIVウイルスだ。RNAをゲノムとして持つウイルスのうち、逆転写酵素を作ることができるものをレトロウイルスと呼ぶ。

逆転写酵素とは、RNAからDNAを合成することができる酵素だ。ちなみに、コロナウイルスは同じくRNAをゲノムとしているが、RNAゲノムからRNAを作ってウイルスを複製しているので、逆転写酵素は持たない。

われわれが学校で学んだ古典的な生物学では、DNAからmRNAが作られ、mRNAをもとにタンパクが作られそれが生命現象の基本であると記載されている。今は、いろいろな種類のRNAがあり、それらが生命現象の調節に関連していることが明らかになっている。

RNAが胎児期に重要な働きを持つこともわかっているし、免疫の刺激にも関わっている。サプッレシンというレトロウイルスの持つタンパクに似たタンパクが、D型レトロウイルスの感染を抑制しているという。

ウイルスもしたたかだが、われわれもしたたかだ。

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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。