自衛隊の人員増大はファンタジー、その原因は・・・

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自衛隊の大幅増員しろ!と主張する先軍政治な議員やら保守派の論客やら元将官、それに軍オタさんたちの威勢のいいこと。

でもねえ、実際それは大変に難しい話です。

「自衛隊に入れたくない親増えた」 難航する隊員確保、どうする?

岸田文雄首相が「防衛力の抜本的強化」を掲げる中、自衛官の確保が難航している。少子高齢化で募集対象者が先細り、応募者も減っているためだ。その「人集め」の手法を疑問視する声もある。

少子高齢化を背景に、自衛官の募集対象者としていた18~26歳の人口は、1994年度の約1743万人から2018年度には約1105万人に約4割減少。同年度に採用上限年齢を32歳まで引き上げて約1881万人まで増やしたため今年度は約1825万人いるが、26年後には約1373万人、46年後には約1193万人に減っていくと予想される。

募集対象人口の減少に伴い、12年度に11万4488人(延べ人数)だった応募者数も、昨年度は8万4825人(同)に。防衛省内には「仕事がきついイメージが広がっている」「地元志向の強い人が増えた」と分析する声もある。「ロシアのウクライナ侵攻で我が子を自衛隊に入れたくない親世代が増えた」とこぼす自衛官もいる。

防衛省は19~23年度、1佐以下の自衛官の定年年齢を階級ごとに1歳ずつ引き上げた。再任用枠も30人(01年度)から1200人(昨年度)と広げて必要数を確保。ただ、「その場しのぎ」(自衛隊幹部)とも言われている。

今年の概算要求では、年末に控える安保3文書の改定を見込んで隊員の実員数は示さなかったが、女性職員の採用や登用の拡大を目指し、ハラスメント防止施策の推進や女性自衛官の勤務環境の整備を盛り込んだ。

元自衛官の女性が訓練中に性加害を受けたと訴えた問題では、浜田靖一防衛相が特別防衛監察を指示。同省幹部は「防衛力強化の議論に悪影響が出ないよう厳しい姿勢を示した」と明かす。

自衛官募集の手法をめぐっては一部で批判の声も上がる。防衛省が全国の自治体から、募集対象者の情報を本人の承諾なしに入手しているためだ。

これに対し、兵庫県弁護士会は6月、プライバシー権を定めた憲法13条や個人情報保護法制との整合性を疑問視し、提供を希望しない市民のデータを除くよう求める意見書を自治体に送付。意見書では、本人の同意なしに電子データで提供しているとして「本人からの申し出による情報提供除外制度を設けない個人情報の扱いには、プライバシー権保護の観点から問題がある」と主張した。

鬼頭宏・上智大名誉教授(歴史人口学)は「自衛官が自由応募である限り、情報の閲覧は制限されるべきだ。国としては情報を利用したいと考えるだろうが、微妙な手法で、できるだけやめた方が良い」と指摘。一方で「今の安全保障環境を踏まえると、人員確保の議論は避けて通れないのも事実」と語る。

なりふり構わず、ということろでしょう。ですが努力の方向が全く間違っています。

本来少子高齢化が進むなかで、兵力削減はやむを得ないと諦観すべきです。それをやらない、認めない。仮に大幅増員が可能だとしても何らかの経済価値を生み出す労働人口をそれだけ削れるのか、それは国力を下げ、税収を下げて危険水域に達している財政赤字の解消をより難しくすることだけではないのか。そのような議論も必要でしょう。

そして記事にもあるような自衛隊の陰湿ないじめ、セクハラ、パワハラ体質、それらを隠蔽して被害者を排除するという陰湿な体質があります。ところがそのような目にあってやめた隊員がどれだけいるのかも防衛省も自衛隊も把握してこなかったわけです。

そういう歪んだ組織文化の是正をする気がなく、やれ、カレーVS唐揚げ対決だといか、萌えキャラ使ったポスターだとか、そういう明後日の方の努力をしている。

むしろ財務省のほうが当事者の防衛省、自衛隊より危機感を持っています。

財務省歳出改革部会(令和2年10月26日開催)資料を読む。その2

自衛隊における新規採用の実態と対応の方向性(P12)

  • 自衛隊では、地方協力本部(全国50か所)の広報官等2,425人により、年間約9万人の応募者を確保しているが、広報官等1人当たり応募者数は10年間(H22~R元)で約2割減であり、効率性が悪化している状況。
  • 近年では、米軍においても採用活動が難航しており、陸軍では、2018年度に13年ぶりの採用目標数割れ(常備軍 69,972人/76,500人)を経験。米国国防総省及び各軍は問題点を洗い出し、新たな採用活動に着手。
  • しかも「情報化時代の市場ベースのモデル」に陸軍は直面していることを明確に認識。

防衛省においても、応募者数が減少した根本的な原因の分析をしっかり行った上で、新しい時代に合った採用活動を実施すべきではないか。

つまり自衛隊のリクルート組織の効率がまず低い。それは当たり前の話です。リクルートの専門家ではない制服が左遷される場所となっているのが地方協力本部です。これは本来内局の仕事です。

例えば文官を中心にして、30~40代の自衛官をここに転籍させ予備自衛官の資格で勤務させる。そうすれば自衛官の再就職対策なり、5でやっていた現場の仕事を3人でこなせるように効率化できれば、自衛官を増やすこともできるでしょう。そして予備役の自衛官も確保でいる。また適宜、外部から採用のプロをスカウトする。株式会社形式にして、バランスシート、業績を透明化する。このような改革が必要ではないでしょうか。

そして無人プラットフォームの導入などの組織を変革させるような省力化には3自衛隊とも大変消極的でした。戦争に勝てる組織になるよりも、身内の利権とポストを優先してからです。

中途退職の現状・課題と抑制策①(P13)

  • 自衛官を増員する一方、自己都合による自衛官の中途退職者は、10年間で約4割増加し、年間約5,000人。これは毎年の新規採用者の約1/3に相当する自衛官が中途退職していることとなる。
  • このうち、国家資格と同等の技能証明の取得が必要な職種の自衛官(パイロット、医官、看護官、整備士等)が、約3割を占める。
  • また、任官後早期(特に4年以内)の退職者が多く、階級別にみれば、曹士クラスが9割超。いわば採用、教育訓練のコストの掛け捨ての状態。
  • 中途退職の原因について、今回はじめて防衛省において統一的に簡易な調査を実施(「就職」、「家庭の事情」といった声が多い)。

ここの指摘は重要です。こういう情報を防衛省、自衛隊は隠蔽して増員だけ求めてくる。そりゃ財務省が認めるわけがありません。セクハラ、パワハラを理由に退職を希望すると許されない。調査が終了するまで退職を許さないとか言われるのでみんな仕方なく、「一身上の都合」にするわけです。そうして加害者を守るから同じような嫌がらせでやめていく隊員が後を絶たない。

それを就職や家庭の事情などの「一身上の都合」にしているので上層部は把握できず、ある日突然幕僚長が頭を下げて陳謝することになるわけです。それも調査をしたのがつい最近です。どれだけ危機意識が組織的に低いかわかるでしょう。

いくらカネを掛けて採用してもまるでざるで水を掬っている状態です。

だから部隊での医官の充足率は2割強に過ぎない。本来護衛艦の定数に入っている医官は海外派遣でもないと乗艦していません。情弱な国防族議員はそんなことも知らずに、護衛艦を増やせとか役立たずのイージスシステム搭載艦を増やせていいってます。

つい最近まで弾薬や燃料の不足、稼働率の低さも知らずひたすら『火の出る玩具』の数だけしか興味がなく、今になって大騒ぎしている人たちですから医官の不足なって興味も関心もなかったのでしょう。いくら借金軍拡をしても医官はスペシャリストは増えません。

ですが歴代大臣は病院に集約しているだけだから大丈夫とか脳天気な答弁をします。

実態は部隊からかき集めないと、自衛隊病院が機能しないからです。それだけ集めても機能していない自衛隊病院は多いわけです。

じゃあ戦時に部隊で医官はいらないのか? 病院の医官を前線部隊にまわして病院は機能するのか、そのシステムがあるのかと言えばありません。戦時のことなんて何も考えていません。

こういう惨状を呈しているのは防衛省、自衛隊の隠蔽体質です。組織防衛のために、都合の悪い真実を、「敵に手の内を明かさない」と称して隠蔽してきました。だから淀んだ組織の空気は悪くなるばかりです。

外部から見れば異常ないじめやその隠蔽が行われている元凶となっています。本来不都合な情報こそ、納税者に開示して、適正な批判を受けることで組織の透明化が維持できます。ところがそれを嫌ってきた。納税者は「敵」だと思っているわけです。それで戦時に「敵」を守れるでしょうか。

【本日の市ヶ谷の噂】
19式155ミリ榴弾砲が5人乗りキャビンを採用せず、中央の「あばら家」に装填手を押し込めたのは22機しかないC-2に搭載するというファンタジーに併せて仕様を作った結果、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。